不測の事態に備えていても
尾行で起こってしまうハプニング

 午後9時45分に指定された千葉との県境に近い駅前ロータリーに立つ内田弁護士を確認し、徒歩や自転車、車、バイク、公共交通機関などさまざまな移動手段を想定し、私がバイク班、パートナー2人を車班として手配して、対象者が現れるのを待ちました。

 午後9時55分に、1人の男性が内田弁護士に近づいてきて声をかけました。付近のお店はほぼ閉まっており、自動販売機の光がわずかに2人を照らしていました。撮影用のカメラをナイトモードに切り替え、なんとか2人の動きを把握することができました。モニターの中では内田弁護士が対象者に名刺を渡して、話している様子が分かりました。対象者は名刺を渡し返すこともなく、数分話をしてその場を立ち去りました。

 私は、バイクを押しながら対象者を追いかけました。パートナーとは電話をつなぎっぱなしにして、対象者の行方を知らせており、車班も遠巻きながら対象者を追尾していました。内田弁護士と別れて5分ほど歩いた先の路上に1台の黒いワゴン車が止まっており、対象者はその助手席に乗り込み、すぐさま走り出しました。車班は信号で停止しており、すぐに追尾できるのは私のバイクだけでした。車班を誘導しつつ追尾していましたが、大事な時に限って何かしらの壁が立ちはだかるのは探偵あるあるです。

 今回の壁は道路工事でした。片側1車線の道路で、片側を封鎖して舗装工事を行っており誘導員による片側通行が、対象者の車と私のバイクが通過した後に反対車線へ誘導を切り替えたため、パートナーの車班との間に5分ほどの距離を作ってしまったのです。

 通常バイクでの尾行は車班の後ろに隠れて対象者の車を追尾し、不測の事態が起きた際はバイクで追い切るという連携方法をとっています。

 不測の事態とは、対象者が禁止地点でUターンしたり、対象車両から対象者だけが降りて徒歩移動に切り替えたが人も車も追わなければいけない時など、エンジンを切って通行人になれるバイクならではの対応が発生した時を指します。

 私のバイクと対象者の車以外には、前後に5~6台ずつの車が走行しているという、まだ交通量がある状況なので対象者の車直後を追尾しながら車班の合流を待ちましたが、車班に問いかけると「合流まで5分かかります!」という状況でした。