今や2人に1人が転職をする時代。就活をする学生ですら、60%近くがセカンドキャリアを意識しているという。では、転職を成功させるためには、何が必要になるのか。それは知識でもスキルでもなく、どう選べばいいのかという判断基準だ――。そんなメッセージで大きな話題となった1冊が北野唯我氏の『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』だ。
「未来の転職に道筋がつけられた」「仕事に向かう意識が変わった」「キャリア観を揺るがされた」などと多くの人に言わしめた、その思考法の心髄とは?(文/上阪徹)

「強みなんてない」…そんな人が「自分の武器」を見つける2つの方法Photo: Adobe Stock

「好きなこと」はどうやって見つければいい?

 転職のために必要な思考法を物語形式で学ぶことができる、と口コミでも話題となり、23万部を超えるベストセラーになっている北野唯我氏の『転職の思考法』。2018年に世に送り出された。

 著者の北野氏は、博報堂、ボストンコンサルティンググループを経て、人材ベンチャーのワンキャリアに参画した人物だ。

 物語の主人公・青野は転職の思考法について理解を深め、物語の後半、いよいよ転職先選びに踏み出す。そして、ここで転職するとなれば、多くの人がぶつかるであろう疑問に直面する。

 仕事が楽しく、しかも、食べていくことができたとしたら、どれだけ最高だろうか?
 でも、好きなことなんて、どうやって見つければいいのだろう?(P.201)

 それに対するコンサルタント・黒岩の言葉は鮮烈だ。

「君は馬鹿だな。どうしてもやりたいことがあるなら、今、こんなところにいないだろ。重要なのは、どうしても譲れないくらい『好きなこと』など、ほとんどの人間にはない、ということに気づくことなんだよ。いいか? そもそも、君に心から楽しめることなんて必要ないんだ」(中略)
「人間には2パターンいる。そして君のような人間には、心から楽しめることなんて必要ないと言っているんだ。むしろ必要なのは、心から楽しめる『状態』なんだ」(P.213-214)

自分の中に「武器」を見つける2つの方法

 やりたいこと、好きなことが仕事にできない。そういう仕事が見つけられないものか。そんな声を、私もよく耳にする。

 フリーランスで30年近く書く仕事をしていることもあるのか、「好きな仕事ができていいですね」と言われたりもする。

 しかし、これは自分の著書でも書いていることだが、私は書くことが好きなわけではまったくない。むしろ、もともと文章は嫌いで苦手だった。広告のキャリアに入ったのは、文章を書くのではなく、言葉を見つける仕事だと思っていたからだ。

 ところが、私の入った世界は採用広告だった。カッコいいキャッチフレーズ1本で、一つの会社を表現することなどできない。結果的に、長い文章を書かざるを得なくなった。そしてフリーランスになり、記事や本も手がけるようになった。

 では、書くことは好きでもないのに、なぜこの仕事をしているのか。書くことではなく、他の人が知らない何かの情報を入手して、誰かに伝えるということは大好きだからだ。それが楽しいのである。

 私が好きなのは、書くことではない。伝えることなのだ。その手段が、たまたま書くことだっただけに過ぎない。

 仕事の表面的な部分にとらわれてはいけない。見るべきは、仕事に潜む本質だ。黒岩の言葉を借りれば、「心から楽しめる状態」なのだ。

 では、どうすればいいのか。黒岩は、青野にこんなアドバイスをする。

「好きなことがあるということは素晴らしいことだ。だが、ないからといって悲観する必要はまったくない。なぜなら、『ある程度やりたいこと』は必ず見つかるからだ。そして、ほとんどの人が該当するbeing型の人間は、それでいいんだ」(P.215)

 大事なことは、「ある程度やりたいこと」が見つかったとき、転職できるだけの力をつけておくことなのである。そして、それをどうやって見つけるのか、2つの方法を伝授する。

1:他の人から上手だと言われるが「自分ではピンとこないもの」から探す方法
2:普段の仕事の中で「まったくストレスを感じないこと」から探す方法(P.225)

 実は私自身、「1」の考え方でこれまで書くキャリアを作ってきた。書く仕事をスタートさせた私だったが、もともとはコピーライターだった。

 ところがフリーランスになり、周囲に誘われるままに仕事の領域を広げていった結果、インタビューや書籍の仕事がどんどん拡大していった。まるで予想もしていなかった未来に、連れてきてもらえたのである。まわりにいる人のほうが案外、自分のことをよく知っているのだ。

やりたいことを見つけたら「会社への忠誠心」でごまかすな

 ある程度やりたい仕事の近くにいる。仕事で心から楽しめる状態にある。それは、誰もにとって理想だろう。しかし実際には、必ずしもそうはいかない。

 多くの人が希望の仕事があっても就くことができない。扱いたい製品を扱っているとは限らない。不本意な配属や異動もある。お金のために会社に言われて仕方なく、やりがいを無視して働いてきた人も、実は少なくない。

 しかし、いつでも転職ができる世の中は、それを変えることを意味する。

「いいか青野、転職とはな、単に名刺の住所や給料が変わるだけのものじゃない。世の中の人々に次のチャンスをもたらすものなんだよ。今の会社では活躍できていなかったとしても、違う場所で輝ける可能性がある人は本当にたくさんいる。それなのに、転職をタブー視して会社への忠誠という言葉で自分をごまかしている人間がどれだけ多いことか。そんな人間が増えると、いずれ会社そのものが立ち行かなくなる。そして人材の流動性が下がれば最終的には社会全体もダメになる」(P.231-232)

 転職が当たり前になれば、逆のことが起こる。自分に嘘をつく人が減る。会社も、より社員に魅力を感じてもらえるような場であろうとする。会社も変わるのだ。

 それにしても、どうして日本は、こんなに窮屈なのだろうか。なぜ、こんなにもみんなが我慢しているのだろう。

「いいか、青野。社会からの目など、死ぬ間際になると本当にどうでもいいことだ。どこの学校を出た、どこの会社に勤めた、そんなものは死を間近にするとまったく無意味だ。君がまだそのことを考える段階にいないなら、変わる必要はない。だが、もしも、君がやりたいことの種を見つけ始めたのだとしたら、決してその小さな種を殺してはいけない。そのやりたいことを大きくしていくプロセスを大事にしろ」(P.233)

 さて、青野が最後に何を学び、どんな結論を選んだか、ぜひ本書を手に取って確かめてみてほしい。あなたが持っているキャリア観、仕事観に、間違いなく一石を投じてくれる。そんな一冊だ。

(本記事は『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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