今や2人に1人が転職をする時代。就活をする学生ですら、60%近くがセカンドキャリアを意識しているという。では、転職を成功させるためには、何が必要になるのか。それは知識でもスキルでもなく、どう選べばいいのかという判断基準だ――。そんなメッセージで大きな話題となった1冊が北野唯我氏の『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』だ。
「未来の転職に道筋がつけられた」「仕事に向かう意識が変わった」「キャリア観を揺るがされた」などと多くの人に言わしめた、その思考法の心髄とは?(文/上阪徹)

周囲に反対されず「転職をスムーズに」伝えるコツPhoto: Adobe Stock

転職を考えたら、最初に知っておくべきこと

「転職に必要なのは、知識でもスキルでもない。どう選べばいいのかの判断基準だ」。モヤモヤとした不安を持っているビジネスパーソンに、転職とは何かを改めて問うたのが、2018年に刊行された北野唯我氏の『転職の思考法』

 口コミでも話題となり、20代からマネジメント層までビジネスパーソンから幅広い支持を得て、23万部を超えるベストセラーになっている。

 著者の北野氏は、博報堂、ボストンコンサルティンググループを経て、人材ベンチャーのワンキャリアに参画した人物だ。

 本書は、商社に務め、転職をしようかどうしようかと迷っている30歳の主人公、青野が、多くの企業再生を手がけてきたコンサルタント・黒岩から「転職の思考法」を授かるという物語形式で展開されていく。

 転職を考えている人には、まさに垂涎のテーマが並んでいる。

「自分の市場価値を測る」
「マーケットバリューを構成する3つの要素」
「今の仕事の寿命を知る」
「仕事がなくなるサイクル」
「強みが死ぬ前に、伸びる市場にピボットする」
「伸びるマーケットを見つける2つの方法」
「伸びる市場の中から、ベストな会社を見極める」
「転職エージェントにはこれを聞け」
「中途で入るべき会社と新卒で入るべき会社の違い」
「選択肢がないと、人は小さな嘘をつく」……。

 しかも物語形式なので、まるで自分が黒岩から教えを請うているように学ぶことができるのだ。これがストーリーと絶妙に組み合わさって、展開されていく。

 ただ、この記事を書いている私が強く共感したのは、後半に出てくる印象的なエピソードだった。私自身、新卒で入社した会社から転職した経験を持っているが、まさに同じことが起きたからだ。

「転職の決断」最後の最後で起きることは?

 転職を考える人間はとにかく迷う。初めてとなれば、なおさらである。本当に転職すべきなのか。やはりこのまま、この会社にいたほうがいいのではないか。行き先が決まってすら迷いは終わらない。

 本書の主人公、青野のように30歳ともなれば、私以上の難しさがあるだろう。実際、青野はやはり会社に残るべきではないか、という思いを抱くのだ。それに対して、黒岩はこう断言する。

「結論からいうとノーだ。転職を希望する人間と話していると、転職直前になって悩むケースは多い。とくに、社内の人間に相談したら自分の行きたいポジションを提示されたり、引き止められたりすることはよくある」(P.181)

 この記事を書いている私が転職したときもそうだった。ましてや私は、会社に入ってまだ2年目だった。世の中がわかっているとは言い難い。当然だが、周囲からは猛反対を受けた。しかも34年前である。まだ、大卒新卒の転職は珍しかった時代。それは仕方がなかったことでもあった。

 ところが、一人だけ例外がいた。私が勤めていたアパレルメーカーの営業部門で、メンター的な立場で接してもらった先輩だ。最初に転職について打ち明けたのだが、最初から最後まで、ずっと応援してくれたのである。

 実は、もし私がやめなければ、彼の営業先を私は引き継ぎ、彼は行きたい部署に異動できることになっていたと後で聞いた。にもかかわらず、私の転職を応援してくれたのだ。これが、いかに私の支えになったか。

 本書でも、青野に最後の後押しをしたのは、一緒に働いていた仲間だった。

 黒岩は言っていた。実際、転職活動の最後は、お世話になった先輩や、慕ってくれている後輩が後押しになるケースが多いと。本人は「申し訳ない」と思っていたとしても、実際に彼らに話すと、驚くことが多い。なぜなら、よき理解者であるからこそ、予想と反し、後押ししてくれたりするからだ。(P.186)

反対されずに「転職をスムーズに」伝えるコツ

 そして、もう一つ、本書で「ここまで書いてくれるのか」と感じたのが、大事な人に転職をどう伝えるか、だ。

 ネタバレになるが、残念ながら青野はこれに失敗する。彼女に転職活動についてまったく報告せず、しかもきちんとした説明ができなかったのだ。

「どう思うって、大丈夫なの? なんでわざわざベンチャーに行くの? お給料とかどうなるの?」
「正直……一時的には下がるかもしれない。でも、人生全体のことを考えるとこれがベストで、生涯年収は上がると思うんだ」
「でも、そんなのわかんないじゃん。失敗したらどうするの? 大きな会社から転職して後悔してる先輩だってたくさん知ってるよ、私。それに今の会社を辞めるなんてもったいないよ」(P.188)

 これに対して、コンサルタントの黒岩は「君にも落ち度はある」と指摘する。転職では、自分の活動に一生懸命になるあまり、周りが見えなくなる危険が潜んでいるのだ。

「それは感情の共有をしなかったこと。初めて転職を考えたとき、君はどういう気持ちだったんだ? 不安だっただろ? 本人ですら心配だったのだから、他人が不安になるのはしかたない。周りの人たちは、君よりも、会社の事情や、転職先の魅力を知らない。知らないことに不安を感じるのは当然だ」(P.191)

 そして、こうアドバイスする。「相手が共感できる文脈で説明する」こと。そのための「ロジック」「共感」「信頼」という3つのステップを伝授する。

 大切な人の反対にあって、転職を断念しないためにも、知っておいたほうがいいことがあるのだ。

(本記事は『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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