ロシア接近が招く西側との断絶に警戒感

 習氏のロシア訪問と前後して、国際社会ではさらにさまざまなことが起こった。

 13日には米英豪の3カ国による安全保障の枠組み「AUKUS」の首脳会議が開かれ、アメリカ製の原子力潜水艦のオーストラリア配備をめぐり協力することで一致した。16日は韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が日本を訪れ、翌17日にはハーグの国際刑事裁判所(ICC)が、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出した。

 20日はバイデン米大統領が新型コロナウイルス感染症の起源に関する情報の機密解除を求める法案に署名し、19日には岸田首相がインドを訪問、その足で21日にウクライナを電撃訪問した。

 こうした動きはますます中国を刺激しロシアに接近させ、ますます世界のデカップリングを進行させるだろう。

 すでに西側諸国の包囲網は中国経済に打撃を与え、その諸症状が表れ始めている。サプライチェーンの移転による失業、貿易の減少がもたらす工場稼働率の低迷、先行きの不透明感から来る消費の落ち込みなどだ。自動車の消費も伸びず、自動車購入税は397億元(2023年1〜2月、57億ドル)と、前年同期比33%も下落した。

 習近平政権の「1期目」(2012年〜17年)では「中国の夢」が14億人の国民の求心力となったが、「3期目」に入った今ではそんなムードもすっかりなくなった。

 今の中国が見せるロシアへの接近は、1950年に中国とソ連が結んだ軍事同盟を彷彿とさせる。国営企業に勤務する上海市在住の男性・蔡仁波さん(仮名、40代)は次のように意見を述べた。

「今回の習氏の訪露は新冷戦を象徴する大きな出来事です。建前は仲裁ですが、この時期にロシアを訪問することは二極に分かれた両陣営の片方を選ぶことであり、独裁国家と呼ばれるロシアと一蓮托生(いちれんたくしょう)になるかのような選択です。私は中国と西側諸国の断絶はさらに深まると感じています」

 蔡さんによれば、これまで国外脱出を希望したのは“習指導部の強権政治”に嫌気がさした人々が中心だったが、「今回は違う」と言う。そこには“新冷戦の開戦”を強く感じ始めた人たちもいて、「英語も日本語も分からない友人さえも、日本に移住したいと騒ぎ始めている」(同)