顧客にとって価値になるポイントは、必ずしも細かい点ではないと続ける。

「その一方で、他県の人にとって分かりやすい返礼品の良さは、当事者目線だと意外と見えにくい。地元の人にとって当たり前すぎて、伝えようとしていないことが魅力的に映ったりもします。そうした核心を的確に捉えられるのは、自分のような『よそ者』の強みだと思います」

 事業者と対話を重ねるなかで信頼関係を築き、同時に商売や商品の背景やストーリーについて理解を深める。一方で、ふるさと納税のプラットフォームで返礼品を紹介する際はあえて一歩距離を置いて表現する。解像度を使い分けながら顧客視点で価値を見極め、ビジュアルや文章に落とし込んだ。

 こうした前例主義にとらわれない「納税者フレンドリー」な施策を展開した結果、寄付額は目に見えて右肩上がりを記録。取り組みから1年で6億円弱まで寄付額が急増し、寄付件数も35件から4万件超まで拡大した。当初の狙い通り、しんじょう君のファンユーザーからの寄付流入も後押しとなった。さらに翌年にはしんじょう君が「ゆるキャラグランプリ」で1位を獲得したことが追い風となり、寄付額は約10億円まで拡大した。

一念発起して独立も
引き続き須崎市を支援

 年々増加する寄付は、さまざまな形で須崎市に還元された。その代表例が、保育料の無償化や中学校給食の実施といった地域サービスの向上だ。また、海上アクティビティー施設の開業など、観光・交流人口を増やし、市外に暮らす寄付者にも恩恵がある施策が展開された。

 返礼品目当てで寄付して終わりという関係ではなく、寄付をきっかけに須崎の魅力を知ってファンになってもらいたい。守時氏はこのことを念頭に置き、寄付の使い道においても「顧客視点」を意識した。

 3年目の2017年度には11億円を突破し、須崎市でふるさと納税に関わるスタッフも8人体制まで拡大。その後も安定的に寄付額を維持していた。

 確固たるノウハウを手に入れた守時氏は、2020年に心機一転して退職。自治体をターゲットに据え、ふるさと納税の運営を代行する地域商社「パンクチュアル」を立ち上げた。そして、須崎市とは“取引先”として今まで通りの関係を維持しつつ、他の自治体にも手を広げ始めた。