守時氏が独立する前に、事業をサポートしていた須崎市のスタッフは、ほとんどが臨時職員で任期満了が迫っていた。さらに、守時氏は入職から8年間、“特例中の特例”で一度も異動していなかったものの、公務員は本来、ジョブローテーションが当たり前の職種である。
そのため、いつかは自身も担当を外れる懸念もあった。このままではせっかく築き上げた共有財産ともいうべきノウハウを継承できない可能性がある――。悩んだ結果、チームとノウハウを守り続ける手段として独立を選択した。市も決断を後押ししてくれたという。
組織が民間となり、優秀な人材をスピード感をもって獲得できるようになった。公務員ではなく一般企業の出身で、新しい発想力を持つ中途人材も集まった。彼・彼女らの力を借りてさらに事業者への声掛けを広げ、独立後初年度の2020年度には、須崎市への寄付額は16億円に達した(コロナ対策補助金を除く)。翌2021年度は19億円を達成し、22年度はさらに増えて26億円程度となった。
「営業力」と「マーケティング力」こそ
寄付を集めるカギ
現在、守時氏が手掛けるパンクチュアルは3年目に入り、スタッフは40人を超える。ふるさと納税事業では確かな実績を収め、22年に委託を受けた7自治体で集めた寄付額は約80億円に上る。
独立後は、須崎市以外の委託元(各自治体)にも数人体制の営業所を構え、積極的な現地採用で雇用を生む『完全地域密着』での事業展開に注力している。
「やることは、返礼品を集めて、コンテンツを作って、寄付を募るだけ。至ってシンプルです。ただ、事業者の理解を得て返礼品を集めるには根気がいる。地域に入り込んで対話を重ねない限り商品の背景は見えてこないし、マーケティングもできっこないんです」
ただし、守時氏が“中の人”のプロとして寄付金を集める独自戦略を編み出した一方、ふるさと納税の寄付金が集まらずに苦戦している自治体も 依然として存在する。
そうした自治体が苦境を脱却するために必要な考え方について、守時氏は次のように語る。
「もし寄付が伸びていないのであれば、返礼品に魅力がないとあきらめる前に、事業者とのコミュニケーションが十分に取れているか、返礼品の打ち出し方は納税者に魅力が伝わるものになっているかを確認するといいのではないでしょうか」
日本全国の自治体が、熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げるふるさと納税の世界。「稼げる自治体」への第一歩は、寄付金の獲得に「営業」や「マーケティング」の視点を取り入れることなのは間違いなさそうだ。