タクシー会社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するベンチャーが、三菱商事やENEOSホールディングス傘下のファンドなどから出資を受けた。“斜陽産業”とも評されるタクシー業界のベンチャーに三菱商事などが投資するのはなぜか。大手企業が期待を寄せるビジネスモデルの強みに加え、今後の成長シナリオを明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
タクシー会社のDXを支援
三菱商事、ENEOS系が出資
タクシー会社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するベンチャー、電脳交通(徳島市)はこのほど、三菱商事やENEOSホールディングス傘下のファンド、日本郵政グループのJPインベストメントなどを引受先とする第三者割当増資で12億円を調達した。
引受先にはほかに四国旅客鉄道(JR四国)やタクシー大手の第一交通産業やエムケイといった交通事業者のほか、阿波銀行やいよぎんホールディングス系のファンドなど地域金融機関も名を連ねる。
併せて、三菱商事とJPインベストメントからは社外取締役をそれぞれ迎え入れる。2020年秋に続き追加出資する三菱商事はモビリティ事業本部の室長が社外取に就く。
大手企業が株主にずらりと並ぶ電脳交通とはどんな会社か。
同社の創業は2015年12月。徳島市出身の近藤洋祐社長らが創業した。創業者の近藤氏の経歴は極めてユニークだ。同氏は地元の高校卒業後にメジャーリーガーを目指して単身渡米し、カレッジに通いながらメジャーリーグでのプレーを目指した。
だが、メジャーの壁は厚く、4年間の挑戦後に帰国。まもなく祖父が経営していたタクシー会社、吉野川タクシーに運転手として入社した。当時、従業員10人ほどの同社は債務が積み重なり廃業の危機にあった。
近藤氏は運転手として売り上げトップの成績を上げた後に、経営に回る。そこで取り組んだのが業界慣行の打破だ。
“個人商店”という色彩の強かった運転手に顧客情報の共有を促して生産性を高め、大胆な従業員の若返りも図った。
改革の取り組みは功を奏し、わずか数年で年商は1.5倍に伸び、負債も解消。地方の零細タクシー会社の淘汰(とうた)が進む中で、V字回復を成し遂げたのだ。
実家のタクシー会社の再建を通じ、直面した課題を解決するために近藤氏が設立したのが電脳交通である。同社の中核ビジネスは、タクシー会社にクラウド型の配車システムを提供するもの。
実は、配車アプリが浸透している都市部とは好対照に、地方では配車予約の9割が電話経由だ。だが、高齢化や人口減少を背景に地方のタクシー会社では配車業務の人員確保が困難になっている。
また、経営の悪化で配車システムの更新などのコスト負担に耐えられない会社も多い。そうした課題に対応したのが電脳交通のシステムだ。クラウド型の安価な配車システムを提供するほか、遠隔でタクシー会社の配車業務も請け負っている。
従来、タクシー会社にとって配車業務は自社運営が基本だった。電脳交通はこうした“固定観念”を打ち崩し、ビジネス化に成功したのだ。
とはいえ、“斜陽産業”とも評されるタクシー業界は、成長市場にはみえない。では、そんなタクシー業界のベンチャーに三菱商事などの超大手企業が投資しているのはなぜか。
次ページでは、電脳交通が持つビジネスモデルの強みともに、三菱商事やENEOSなど大手企業が期待を寄せる将来の成長シナリオを明らかにする。