解禁の背景はある地方企業の提言

 デジタル払い解禁のきっかけの一つが、福岡県に拠点を置くフィンテック企業、ドレミングホールディングの提言だった。18年6月14日に開催された国家戦略特区諮問会議で、同社の高崎義一CEOがデジタル支払いを進めるための規制緩和を求めた。高崎氏は、外国人の受け入れ強化のために、銀行口座開設の困難さを解消し、リアルタイムでのデジタル給与支払いを可能にする必要性が高まっていると主張した。

 それに加えて、同社にはデジタル払いの活用によって、新興国の需要をより多く獲得できるとの思惑もあっただろう。例えば、アフリカ大陸などの途上国では、無線通信基地局の設置によって携帯電話の利用者数が増えている。これまで銀行口座を持たなかったが、スマホアプリなどで口座を開設し働いた分の給料を受け取る人は増えている(生活に必要な金融サービスにアクセスする人が増えることを「金融包摂」と呼ぶ)。

 アプリを通して銀行、ネット通販、さらには医療などのサービスを利用することも可能になった。こうして、加速度的に経済活動はデジタル化している。それは社会の厚生、人々の「ウェルビーイング」を高める。既存の銀行システムが未整備な分、新興国における給与デジタル払いなどのスピードはわが国より早い。

 ドレミングの提言をきっかけに、政府はデジタル払いの実現に取り組んだ。企業は銀行口座振込手数料を削減し、就業者もATMなどからお金を引き出す手間が省かれると期待された。世界的に主要中央銀行による、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)の利用を目指す動きも強まった。

 加えてコロナ禍の発生は、民間、政府、両分野でのデジタル化を加速させた。効率性を高め成長を目指そうとする民間企業の考えに触発されるようにして、わが国はデジタル払いの準備を進めたといえる。

 一方、銀行ではない資金移動業者に関しては、破綻時に預かっていた財産の価値をどう保全するかなどの懸念がある。ITセキュリティーの強化も欠かせない。利用者の保護体制の整備など、より安心したデジタル払いの実現に向け、解禁は当初予定されていた21年度ではなく、23年度にずれ込んだ。