高齢者・学生・観光客を取り込めず

 久留里線の中でも久留里駅~上総亀山駅間の営業実績がここまで落ち込んだ最大の原因は、この50年間で沿線人口が半減したことだ。過疎化が進むこの区間は、地方の鉄道利用者に多い高齢者や学生、あるいは観光客といった客層を取り込めていない。

 高齢者や学生が電車に乗らない要因は、「鉄道でカバーできない地域の広さ」にある。

 鉄道沿線の平山・松丘・亀山の各集落は、山深くまで広がっている。駅から5km以上先まで続く人家への足となっているのが、従来のコミュニティバスを置き換える形で12年からエリアを拡大したデマンド(予約制)バス「きみぴょん号」だ。上総エリア内なら自宅から目的地まで直通送迎してくれるため、通院や買い物で平山駅・上総松丘駅・上総亀山駅へ移動するとなると、むしろ不便になってしまう。

 また、20年には中学校が小櫃地区に、21年には小学校が久留里地区に再編・集約されたが、広大なエリアの通学を鉄道に頼れず、通学輸送はスクールバスが担っている。

上総小学校のスクールバス上総小学校のスクールバス。小学校だけで6ルートで送迎を行っているという Photo by W.M.

「ライバルの存在」も大きい。鉄道と並行する国道410号、465号を走る高速バス「カピーナ号」(安房鴨川駅~千葉駅)は、姉崎袖ケ浦ICから館山道に入り、木更津駅を経由することなく「千葉メディカルセンター」のある蘇我駅、県庁や千葉市内に直通している。

鴨川~千葉間で運行されている高速バス「カピーナ号」安房鴨川駅~千葉駅間で運行されている高速バス「カピーナ号」 Photo by W.M.

 亀山湖エリアは紅葉の季節にたくさんの人でにぎわうが、人気観光施設「きみつふるさと物産館」などへはカピーナ号で直接向かう人も多い。さらには、国道410号のバイパス道路「久留里馬来田バイパス」も建設中だ。全線開通すれば、鉄道を利用する層はかなり限られてしまう。

 ここで視点を変えて、久留里駅~上総亀山駅間(9.6km)の「年間で収入100万円、損失が2.8億円」を、他の赤字JR路線と比較してみよう。

・23年3月をもって廃止となったJR北海道の留萌本線(全長50.1km)は、「収入600万円、損失1.23億円」

・全国のJRで営業係数ワーストの「2万3687円」であるJR西日本の芸備線・東城~備後落合間(広島県、25.8km)は、「収入100万円、損失2.3億円」

 久留里駅~上総亀山駅間(9.6km)は上記2路線よりもさらに厳しいことがわかる。久留里線は運行本数も多く、一部便では車掌も乗務している。そのため、距離の割にどうしても費用がかかる「高コスト体質」である。

 なお、JR東日本は津軽線(青森県)に関してもバスへの転換を検討しているが、こちらは災害からの復旧が絡んでいる。一方、久留里線は経営難を理由にバス転換が初めて話し合われるケースとなる。