職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。
気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか?
この連載では、「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきた『気づかいの壁』の著者、川原礼子さんが、「気がつくだけの人」で終わらず、「気がきく人」に変われる、とっておきのコツをご紹介します。

オフィスで挨拶が聞こえたら「感じのいい人」は必ず何をするか?Photo: Adobe Stock

あいさつは一瞬でも
手を止めて「顔を上げる」

 これは、小さな組織でリーダーを務めるKさんの実話です。

「仕事の精度を上げること」「メンバーのスキルを上げること」こそが、リーダーの役割と信じていたKさんでしたが、ふと気づくと、メンバーから「業務確認」以外で、まったく話しかけられなくなったことに気がつきました。

 そしてある日、メンバーから上司に対して、Kさんへの不満の声が上がっていたことを知りました。

 Kさんは上司から、「ちゃんとメンバーを見てる? メンバーはあなた以上にあなたを見ているよ?」と、厳しい叱責をされました。

 Kさんが見ていたのは自分の仕事で、メンバーではなかったのです。

 上司からは、メンバーと向き合うこと。まずは手を止めて、顔を上げてあいさつすることから始めてごらんとアドバイスをされました。

 一瞬、拍子抜けしたものの、Kさんは藁をもすがる思いで、そのアドバイスに従いました。

 それまでは、あいさつが聞こえても、パソコンを凝視しながら、機械的にあいさつしていただけだったのです。

「顔」を見るから、
「変化」に気づける

 毎日顔をあげてあいさつしてみると、次第にメンバーの様子が日によって異なることがわかってきました。

「今日は体調が悪そう」
「いつもよりフルメイクだ」
「あいさつに元気がない」

 それまでも視覚や聴覚に入っていたことでしたが、認識をするようになりました。

 その後も「顔上げてあいさつ」のような小さな行動を重ねていくうち、時間はかかりましたが、少しずつ関係が修復していきました。

 Kさんは20年前の私です。

 たった1秒でも手を止めて顔を上げてあいさつすると、あなたを受け入れている・大事に思っているという「気づかい」のメッセージになります。

 相手の領土を尊重するのです。

 そのチャンスが、1日2回もあります。これがあるのとないのとでは、半年や1年単位で大きな差になることを学びました。

 もしもあなたの組織の空気が停滞していたら、ぜひ、手を止めてあいさつすることから始めてみてください。

 そして、反応がすぐに返ってこなくても気にしないことです

 時間はかかっても、プラスはプラスで返ってきます。返報性の法則です。

 根気強く続けていけば、やがて、あいさつの輪が広がって、チームの習慣になります。

 その頃、あらためて周りを見渡してみてください。きっとチームにいい空気が流れていると思います。

川原礼子(かわはら・れいこ)
株式会社シーストーリーズ 代表取締役
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。