職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。
気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか?
この連載では、「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきた『気づかいの壁』の著者、川原礼子さんが、「気がつくだけの人」で終わらず、「気がきく人」に変われる、とっておきのコツをご紹介します。
あいさつは一瞬でも
手を止めて「顔を上げる」
これは、小さな組織でリーダーを務めるKさんの実話です。
「仕事の精度を上げること」「メンバーのスキルを上げること」こそが、リーダーの役割と信じていたKさんでしたが、ふと気づくと、メンバーから「業務確認」以外で、まったく話しかけられなくなったことに気がつきました。
そしてある日、メンバーから上司に対して、Kさんへの不満の声が上がっていたことを知りました。
Kさんは上司から、「ちゃんとメンバーを見てる? メンバーはあなた以上にあなたを見ているよ?」と、厳しい叱責をされました。
Kさんが見ていたのは自分の仕事で、メンバーではなかったのです。
上司からは、「メンバーと向き合うこと。まずは手を止めて、顔を上げてあいさつすることから始めてごらん」とアドバイスをされました。
一瞬、拍子抜けしたものの、Kさんは藁をもすがる思いで、そのアドバイスに従いました。
それまでは、あいさつが聞こえても、パソコンを凝視しながら、機械的にあいさつしていただけだったのです。
「顔」を見るから、
「変化」に気づける
毎日顔をあげてあいさつしてみると、次第にメンバーの様子が日によって異なることがわかってきました。
「今日は体調が悪そう」
「いつもよりフルメイクだ」
「あいさつに元気がない」
それまでも視覚や聴覚に入っていたことでしたが、認識をするようになりました。
その後も「顔上げてあいさつ」のような小さな行動を重ねていくうち、時間はかかりましたが、少しずつ関係が修復していきました。
Kさんは20年前の私です。
たった1秒でも手を止めて顔を上げてあいさつすると、「あなたを受け入れている・大事に思っている」という「気づかい」のメッセージになります。
相手の領土を尊重するのです。
そのチャンスが、1日2回もあります。これがあるのとないのとでは、半年や1年単位で大きな差になることを学びました。
もしもあなたの組織の空気が停滞していたら、ぜひ、手を止めてあいさつすることから始めてみてください。
そして、反応がすぐに返ってこなくても気にしないことです。
時間はかかっても、プラスはプラスで返ってきます。返報性の法則です。
根気強く続けていけば、やがて、あいさつの輪が広がって、チームの習慣になります。
その頃、あらためて周りを見渡してみてください。きっとチームにいい空気が流れていると思います。
株式会社シーストーリーズ 代表取締役
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。