スタンフォード大学・オンラインハイスクールはオンラインにもかかわらず、全米トップ10の常連で、2020年は全米の大学進学校1位となった。
世界最高峰の中1から高3の天才児、計900人(30ヵ国)がリアルタイムのオンラインセミナーで学んでいる。そのトップがオンライン教育の世界的リーダーでもある星友啓校長だ。全米トップ校の白熱授業を再現。予測不可能な時代に、シリコンバレーの中心でエリートたちが密かに学ぶ最高の生存戦略を初公開した、星校長の処女作『スタンフォード式生き抜く力』が話題となっている。
ベストセラー作家で“日本一のマーケッター(マーケティングの世界的権威・ECHO賞国際審査員)”と評された神田昌典氏も、
「現代版『武士道』というべき本。新しい時代に必要な教育が日本人によって示されたと記憶される本になる」
と語った本書の要点と本に掲載できなかった最新情報をコンパクトに解説する本連載。
「情報7daysニュースキャスター」や「朝日新聞be on Saturdayフロントランナー」出演で話題。スタンフォード在住の著者と芦澤美智子氏(横浜市立大学准教授)との対談後編をお送りする。
星友啓(以下、星):前回は、スタンフォード大学に客員研究員として在籍されている芦澤美智子さんに、スタンフォード大学生の起業事情や起業における日本との違いについてお話しを伺いました。
今回は、世界的に有名なスタンフォード大学から、なぜ優秀な若手起業家が次々と輩出されるのかに迫りながら、「日本の起業家精神」についてもお伺いしていきます。
シリコンバレー滞在で感じた
「若手の起業家精神」の源泉
KPMG東京で5年間公認会計士として活躍した後、産業再生機構や株式会社アドバンテッジパートナーズで企業変革プロジェクトに従事。その後、2013年より横浜市立大学国際商学部の准教授。
スタートアップ・エコシステム形成の研究を続けている。2022年8月から1年間、スタンフォード大学に客員研究員として所属し、スタンフォード大学のエコシステムについて調査をしている。
また、複数の企業で社外取締役を務めた経験を持ち、横浜市や日本の省庁関連機関の様々な委員を務める。
慶応義塾大学で経済学士号、MBA、経営学博士号を取得。慶應ビジネススクールのエグゼクティブプログラムの非常勤講師も務めている。
星:私は職業柄、海外に住んでいる日本人から、「子どもがせっかく英語を習得したのですが、日本へ帰ることになっています。どのように英語力を保っていけばいいですか?」とよく質問をされます。
残念ながら、言語は常日頃から使わないとすぐ忘れてしまいます。
だから、あまり頑張りすぎも意味がないと正直にお伝えするようにしています。
しかし、一方で日本に帰っても「違う国に住んでいた」という感覚はずっと残る。そうした国際感覚というか、国境のハードルが低い感覚にとても価値があると思っています。
異国に住んだり、体験したりすることから生まれるので、大事なのは個々のスキルよりもそうした肌感覚なのではないかと思います。
芦澤美智子(以下、芦澤):共感します。
実は、私は高校1年生の子どもを連れてきています。
正直、技術論的に1年間で英語を習得させることは難しいです。
ですが、英語の技術以上に「ここで生きるという感覚」が他人ごとではなく、自分ごとになることが大きな意味を持つと思っています。
その感覚によって、自分が行きたくなったとき、やるべきだと思ったときに、海外にこられるようになりますね。
もう一つは、自分の根っこになる「自信」をつくることができます。
息子の場合、少なくとも英語に関してはクラスの一番下という状況でした。
ですが、それでもそこで生き抜いた自分に対する「生きる力への自信」、そして苦しい中で「一体自分は何がやりたいんだ?」と問い続けた先にある、人としての軸やコアみたいなものが見えてくるのではないかと思います
実は日本の起業活動指数は世界的に低いことで有名です。
スタンフォードにきて、多くの起業家や学生と対話する中で、日本の起業活動指数の低さは、一人ひとりが「何がやりたいのかわからない」というところに原因があるのだと再認識しました
先日、ある世界的な研究者である日本人と話したのですが、自分が見たことのない情報や世界に触れると、選択肢が広がり、選択肢が広がれば、「やりたいこと」が見つかる可能性が高くなりますよね、とおっしゃっていました。
これが「若いうちに海外に出たほうがいい」というメッセージにつながります。
星:やりたいことを見つけられるかという問題は、世界中の子どもが一緒です。
スタンフォード大学オンラインハイスクールにくるようなトップクラスの人材でも、同じ問題を抱えています。
「見つからないことが当たり前」という前提でいうと、「やりたいことを決めつけてしまう問題」もありますよね。
「やりたいこと」は、今自分の知っている狭い選択肢からしか選べず、可能性を狭めてしまうこともしばしば。
なかには、小さい頃の夢を追いかけて大成する人もいるものの、実際には、小さい頃から夢があった人は離職率が高いということも知られています。
まだ見たことがない可能性がそこらじゅうにあるにもかかわらず、今までの自分の体験や理解だけで判断したり決めつけてしまう。
夢を持つのはいいことですが、新しいことを知ったときや、環境が変わったときにフレキシブルに対応できるマインドを育てていく必要があると思いました。
芦澤:私も大学でアントレプレナーシップ教育をやっていて感じますが、日本人学生が出してくるビジネスプランは似たものが多いです。
数年やっていると、「またこれか」と。
典型的なものとしては、
「大学でキャンパス内の生活を快適にするアプリをつくる」
「生き甲斐が見つからない、楽しみが見つからない人たちに寄り添りそうサービスを提供する」など。
もちろん、これらは、大学生が抱えているペインであり、ビジネスとして解消されるといいものです。
しかし、多くの学生が類似したビジネスプランを提案するのは、学生の多くが似た環境にいて、独自のペインやニーズが見つけにくい状況にあることを意味します。
一方、シリコンバレーには世界中から国境を越えて人が集まってきます。
世界で今何が起こっているのかという情報が入ってきます。
より多くの世界、選択肢が見えてきます。その延長線上に、今何をするべきか、自分が何をしたいのか、が見える可能性が高まります。
そんな意味でも、相対的に多様性が少ない日本でビジネスつくろうとすることが、不利に働くかもしれません。