痛み、コリ、だるさ、むくみ、疲れ、便秘、老化、不眠、よくわからない不定愁訴。『すごい自力整体』の著者・矢上真理恵さんは、「不調のほとんどは自力整体で解消できる」と語る。「自力整体」とは「整体施術のプロの技法」を自分におこなえる人気メソッド。体のゆがみを正しい位置へ戻し、筋肉や関節のコリをリリースして、不調を根本から取り除くワークだ。現在、若い世代から高齢の方まで約1万5000人が実践している。東洋医学をベースにしながら効率的に問題解決するのも人気の秘訣。本稿では、「ランニング・ウォーキングでゆがみを整える方法」について話を伺った。(構成/依田則子、写真/榊智朗)
監修:矢上 裕 矢上予防医学研究所所長、自力整体考案者、鍼灸師・整体治療家
体がゆがみやすいランニング&ウォーキングとは?
――健康のためにランニングやウォーキングをおこなっているのに、ひざや腰、足首の痛みが出るという声をとてもよく聞きます。そこで「自力整体」の視点からアドバイスをお願いします。
矢上真理恵(以下「矢上」):まず、みなさんはランニングやウォーキングをするとき「つま先」で着地していますか? または「かかと」で着地していますか?
――私の場合、長年「かかとで着地」を実践しています。「かかと着地」が体にいいと思ってやっていました。
矢上:そうですよね。じつは私もかかと着地が常識だと思い込み、ずっと実践してきました。学生時代、駅伝部だったのですが、よく先生に「かかとで着地をしなさい」と言われてきたんです。今ふりかえってみると、当時はよく足首を痛めていました。
ご存じの方も多いと思いますが、ここ数年は科学的にも「かかと着地」は足の痛みやケガ、全身の不調につながりやすいと言われるようになりました。
東洋医学がベースの「自力整体」の視点で見ても、「かかと着地」は地面の衝撃をダイレクトに受けるので、体がゆがみやすいんです。
私の教室にはランニングやウォーキングでひざや腰を痛めて駆け込んでいらっしゃる生徒さんは本当に多いのですが、みなさん「かかと着地」をやっていました。
一方「つまさき着地」は衝撃を分散することで足腰への負担が軽減され、エネルギー消費もおさえると言われています。東洋医学的に言えば、「気」のムダづかいをしないということです。
ウォーキングやランニングで足腰を痛める理由
――なぜ「かかと着地」は足腰に負担がかかるのでしょうか?
矢上:たとえば、縄跳びで「かかと着地」をすることを想像してみてください。
頭に衝撃がドン! と走って、背骨もズシン! と響きます。地面の衝撃をダイレクトに受けます。
これは、足や骨盤のクッションをしっかり使っていないからなんです。この積み重ねで、ゆがみやズレが発生するというわけです。
一方、「つまさき着地」は足指や足首、骨盤まわりの筋肉や関節をよく動かすので、それが柔らかいクッションのようになって衝撃を軽減してくれます。
ひざ痛や腰痛のある生徒さんに「つま先着地」を意識して歩いていただくと、その場で「痛みが緩和された!」という声は少なくありません。
――クッションにたとえると、とてもわかりやすいですね。
矢上:そうですね。もう少し詳しく説明すると、体には「4つのクッション」があるんです。
・足の指、足首のクッション
・ひざのクッション
・股関節のクッション
・仙腸関節(*場所は画像参照)のクッション
「つま先着地」は、この4つのクッションを効率よく動かし、地面からの衝撃を背骨にかかりすぎないように緩和します。
一方、「かかと着地」は、この4つのクッションをほとんど使わない動きなんです。下半身は動いているけれど、じつはサボっているイメージです。
――とはいえ今日から「つま先着地で歩いてください」と言われても、ちょっとピンときません。何かいい方法はありますか?
「つま先着地」は骨盤のゆがみを自然に整える
矢上:「つま先着地」のすごさがわかるいい方法がありますよ。
家の中で、裸足で「つま先着地」で歩き地面を足の指で捉えるイメージで歩いてみてください。すると足指から足首、そして大腿骨まで、「あ、筋肉や関節を使えているな」と気づくはずです。
また、骨盤後傾や骨盤前傾の人も、骨盤がピンと立つ感覚に気づくと思います。サボっていた下半身の筋肉が目覚め、自然にゆがみも整うというわけです。
そのあと「かかと着地」で歩いてみてください。
「けっこう背骨に衝撃くるな」
「下半身の筋肉、ラクしてるかも?」
などと気づくはずです。
こんな感じで日頃から「つま先着地」を意識すれば、ゆがみやズレを予防、下半身の筋トレもできるというわけです。
――なるほど、まさに今すぐできる自力整体ですね。
矢上:ランニングやウォーキングの際に注意してほしいことがあります。
それは「足の長さのアンバランス」です。 左右の長さの違いを確認するのは次の方法をおこなってください。
1,開脚をして、左右それぞれの足先を手で触れてください。
2,手で触れて、太ももの裏の筋肉が突っ張る方が長い脚です。
その左右アンバランスの状態で、ランニングやウォーキングをするとどうなるか? 足が長いほうの坐骨神経痛やひざが痛くなり、足が短いほうの股関節や腰が痛くなるのです。
せっかく健康のためにはじめた運動で、足腰の痛み(腰痛、坐骨神経痛、股関節痛、ひざの痛み)が出て、整形外科や接骨院に通われている方が多いのはそのためです。
ですから、「つま先着地」と同時に大切なのは、「左右の足の長さのアンバランスを整えて均等にしてから運動をはじめ、終わったら再度足の長さを均等にしておく」という作業が必要なのです。
足の長さを均等にする方法は『すごい自力整体』の本の中で紹介している「20分間ショートレッスン」を実践してください。
――最後に、もともと腰やひざが痛くてランニングやウォーキングがつらい方にも、おすすめできることはありますか?
矢上:こちらも20分ショートレッスンをしばらく続けていただくと、腰やひざの痛みの原因である「ゆがみ」を解消して、ランニングやウォーキングも楽しめるようになりますよ。
最後に、本の中からウェブ読者のみなさんへ、ひざ痛を解消するワークを紹介しますね。
――ぜひ教えてください。
矢上予防医学研究所ディレクター
1984年、兵庫県生まれ。高校卒業後単身渡米、芸術大学プラット・インスティテュートで衣装デザインを学び、ニューヨークにて独立。成功を夢見みて、徹夜は当たり前、寝るのはソファの上といった多忙な生活を続けた結果、心身のバランスをくずし動けなくなる。そのとき、父・矢上裕が考案し1万5000名が実践している「自力整体」を本格的に学び、心身の健康を取り戻し、その魅力を再発見。その後、自力整体ナビゲーターとして、カナダ、ヨーロッパ各地、イスラエルにて、クラスとワークショップを開催。さらに英国の名門セントラル・セント・マーチンズ大学院で「身体」をより体系的に学び、2019年に帰国。現在、国内外の人たちに自力整体を伝えながら、女性のための予防医学をライフワークにしている。
監修者:矢上 裕(やがみ・ゆう)写真右
矢上予防医学研究所所長、自力整体考案者、鍼灸師・整体治療家
1953年、鹿児島県生まれ。関西学院大学在学中の2年生のとき、予防医学の重要性に目覚め、東洋医学を学ぶため大学を中退。鍼灸師・整体治療家として活躍するかたわら、効果の高い施術を自分でできるように研究・改良を重ね「自力整体」を完成。兵庫県西宮市で教室を開講、書籍の出版やメディア出演などで注目され、全国から不調を抱える人々が続々と訪れるようになる。現在約500名の指導者のもと、約1万5000名が学んでいる。著書に『DVDで覚える自力整体』『DVD3分から始める 症状別 はじめての自力整体』(ともに新星出版社)など多数。遠隔地の人のために、オンライン授業と通信教育もおこなう。 写真/榊智朗