中小企業にとって人手不足の深刻化が顕著に

 今後、わが国全体で、人材の争奪戦はさらに激化するだろう。人口が減少する中、企業も政府や地方自治体も、優秀な人材を一人でも多く確保しなければならない。それは中長期の事業や政策運営に決定的影響を与える。

 具体的に、民間企業は、より高い成長が期待される海外での事業運営体制を強化しようとするだろう。人工知能(AI)の活用などデジタル化への対応のためにも、人材の確保は急務だ。

 政府や地方自治体では、海外からの直接投資を誘致したり、訪日外国人(インバウンド)需要を喚起したりして経済的な成長の基盤を強化しなければならない。そのための規制改廃は急務だ。行政のデジタル化を進めるためにも、民間に負けない給与水準や就業環境を整備することは欠かせない。官民を問わず、いかにして人材を確保し、極力長く活躍してもらうか、戦略的な重要性は急速に高まる。

 問題は、すべての事業者や公的な機関がそうした競争に対応できるとは限らないことだ。厚生労働省が公表する職業別の有効求人倍率を確認すると、2月、サービス関連(介護、飲食、宿泊など)は3.09倍、輸送関連(トラックの運転など)で2.23倍、建設や採掘関連は5.34倍と、求人倍率が高止まりしている分野は多い。

 人手不足が鮮明となる中、事業運営主体の体力の高低は人材確保に大きく影響する。経営体力のある企業は賃金を引き上げたり、デジタル技術を導入したりすることで個々人のライフスタイルに合った働き方を提供できる。

 反対に、十分な体力のない中小企業などにとって、状況の厳しさは増すだろう。東京商工リサーチによると23年1~2月期、人手が足りず事業運営に行き詰まり倒産した企業(人手不足関連倒産)が、前年同期比162.5%増の21件だった。人手を確保することができず事業運営の難しさが一段と高まる企業や自治体は増えるだろう。国家公務員の週休3日制の導入検討は、そうした危機感が政府にまで及んでいることを示す、象徴的な変化である。