死について考えることは、多くの人にとって楽しいものではないだろう。
しかし、人が死について語ることばは、ときに人を勇気づける。「どう死ぬか」は「どう生きるか」の裏返しなのだ。
2023年4月に発売された新刊『生きるために読む 死の名言』(伊藤氏貴著)は、「死についての名言」だけを集めた書籍。作家、医師、漫画家、武士、コメディアンなど、さまざまな分野で名を残した人物の、作品・遺言・遺書・辞世から珠玉のことばを紹介している。
本連載では特別に『死の名言』の中からひとつを抜粋、再編集してお届けする。

歴史作家・司馬遼太郎が坂本龍馬に託した【いい死に方】とはPhoto: Adobe Stock

一生のうちに完成できる志など、ちっぽけなものにすぎない

目的への道中で死ぬべきだ。」

司馬遼太郎著『司馬遼太郎全集 第四巻』「竜馬がゆく 二」(文藝春秋)より

 たんなる一小説家たることを超え、「司馬史観」と言われる歴史への独自の洞察によっても大きな影響を与えてきた司馬遼太郎ですが、なんと言っても最大の魅力は、彼の描く人物像にあります。

 個人として悩みを抱えつつも歴史の大局に立ち向かっていく人間の生きざまこそが、読者の心を掴んできました。

 たとえば『坂の上の雲』がなければ、秋山好古(あきやまよしふる)、真之(さねゆき)兄弟について知る人は極めて少なかったことでしょう。

 歴史学ではさほど重視されず、教科書から消えるかもしれない坂本竜馬の人気を不動のものとしたのも、司馬の『竜馬がゆく』でした。

 その中で「人の一生というのは、たかが五十年そこそこである。いったん志を抱けば、この志にむかって事が進捗するような手段のみをとり、その目的への道中で死ぬべきだ。生死は、自然現象だから、これを計算に入れてはいけない」と語る竜馬はまさにそのようにして、道半ばでたおれました。

 司馬自身は「五十年」をはるかに超えて生きましたが、『街道をゆく』という50歳頃から書き継いでいたエッセイの連載中、取材後に吐血してそのまま腹部大動脈瘤破裂のため死去しました。まさしく目的への道中で亡くなったと言えるでしょう。

司馬遼太郎
1923-1996 没年72歳

作家。大阪は浪速生まれ。大阪外語大学モンゴル語科を繰り上げ卒業して学徒出陣し、満州に配属される。戦後、記者として新聞社に勤める傍ら小説を書き、38歳のとき『梟の城』で直木賞受賞。翌年退職し専業作家となり、『竜馬がゆく』『国盗り物語』『花神』『翔ぶが如く』など、大河ドラマの原作となる作品を数々残した。

(本稿は、『死の名言』より、一部を抜粋・編集したものです)