家具は全て一品モノ
気になる販売価格は

 ここまで画像をちりばめながら紹介してきて、興味を持った人もいるかもしれないが、残念なお知らせがある。販売価格は、1人掛けソファが99万円、3人掛けソファが104万5000円、リビングテーブルが38万5000円(いずれも税込で送料は別)だ。

 さすがにこの価格では手が出ない。しかし、完全受注生産であること、鉄道用の特殊な素材、製法を用いていること、1人のベテラン職員が4~5カ月をかけて製造することを考えれば、ニトリやIKEAなどの低価格な量産品家具と比較できるものではない。

 高級家具の世界では100万円前後のソファは決して珍しくないが、そうしたものでも10ロット単位で製造するところ、「銀河」オマージュ家具は全て一品モノだ。この値段でも大きな利益は出ないのが実情という。

 JR西日本テクノスは今後、価格帯を広げていきたいとしているが、一方でブランドを安売りするつもりもないようだ。そもそもこの企画、同社の持つ技術で何ができるか、社内から募った40件のアイデアのひとつから出発した。

 鉄道車両、特に観光列車はデザインや素材にこだわり、独自の世界観、ブランドを構築している。せっかくの「良いもの」が鉄道内で完結し、世に出ていかないのは惜しいということで、まずは「くつろぎ」や「カジュアル」をコンセプトに持ち、家庭向けと親和性の高い「銀河」を題材に家具を作ってみようということになったという。

 JR西日本テクノスの城戸宏之氏は「デザインをワンポイントにあしらったグッズではなく、デザインの思想と結び付いた製品を作りたかった」と語る。そのために実際の車両と同じ部品をそのまま使うのでも、ただ色や模様を似せるのでもなく、デザイナーの川西氏監修のもと、コンセプトを保ちつつリビングで使いやすいようアレンジした。

 つまりメインターゲットは鉄道好きというよりは「(銀河の)価値観を共有でき、長く使ってくれる人」(城戸氏)。城戸氏は「鉄道車両は40年、50年とずっと修繕しながら使っていくもの。家具も傷んだ部分を直してくださいと言ってくれるような、長くお付き合いできるお客さんを大切にしたい」として、将来「銀河」が引退した後も、そのストーリーを思い起こさせるアンティーク家具として残ってほしいという壮大な夢を語る。

 現在のところ、数は少ないが注文はあるとのこと。完全受注生産を逆手に取って、寸法や形状の変更など、オーダーメードにも対応でき、さらに販売済みの家具を改良・改造するオプションも検討中とのことで、長い時間を共にできる「運命の人」を待っている。

 JR西日本グループとしても一回限りの限定商品で終わらせるつもりはない。今後は観光列車の登場に合わせた新たなオマージュ家具の展開や、廃車から取り外した部品を素材にした小物や装飾品の製造なども検討している。

 城戸氏は「鉄道事業者が見学に来るたびに、『みなさんで一緒にやりませんか。ひとつの世界観をつくりませんか』と声をかけている」と明かす。

 近年、鉄道事業者は観光車両や特急車両・特別車両に注力しているが、築いたブランドを車両だけにとどめておくのは確かにもったいない。こうした車両は利用者との関係だけでなく、列車とともに価値観を創り上げる地域とも密接な関係を持つ「鉄道家具」は、団体・法人向けの販路にも可能性がある。

 軽々しく買いたいと言えないのがつらいところではあるが、筆者も猫たちと相談してみたいと思う。