指示は明確に、
でもクッションも必要……?
以前から疑問に思っていることがある。ビジネスシーンでは、指示はなるべくシンプルに、そして明確に行う方がよいといわれている。
「早めにお願いします」よりも、「明日の午前11時までにお願いします」の方が、両者の間で認識の違いが出づらい。
「ごめん、できたらでいいんだけど、明日までにやっておいて」は配慮を感じる言い方ではあるものの、本心で「必ずやっておいてほしい」と思っているのであれば、そのように伝えるべきだろう。「できたらでいいとは言ったけど、言外ににおわせた意図を読み取れよ」というのは、現代社会ではそろそろ難しくなりつつある。
ここで犬のしつけの例を出すのは適当ではないかもしれないが、犬をしつける際には、「座れ」「待て」など、なるべく短い言葉で指示を出す。犬に向かって「座り心地が良い場所だと判断したら座ってください。もしそうでないと感じたら座らなくても結構です。ただし、私は今あなたに座ってほしいと思っています」などと言ったら、犬はそれを理解することは到底できないだろう。
人間と犬は違うとはいえ、基本的には人間も、指示はシンプルな方がわかりやすいはずだ。
しかし、ビジネスでは一方で、クッション言葉を使うことも奨励される。「ご面倒でなければ」「可能であれば」「差し支えなければ」などがそれである。
最近では定型になりすぎてしまって、相手に差し支えがある場合を想定していなくても使われるケースがある。「ご遠慮ください」が「遠慮しながらならやっていい」と受け取る人がいることを考えれば、「差し支えなければお願いいたします」と言われて「はい、わかりました」と答えた人が、(差し支えがあるからやらないでおこう)と考えている未来もあり得そうだ。
人間に求められる情報処理能力が増え続ける現代。個人的には、言外の意図を読み取ることを前提としたやり取りよりも、異なる背景を持つ人に通じるシンプルなコミュニケーションが重視されるようになるのではないかと感じる。