日本は火の海になると警告する
G7サミット「陰の主役」の中国

 岸田首相にとって地元・広島でのG7サミットはまさに正念場となるが、その陰の主役は中国になる。

「台湾統一に武力行使を放棄しない。台湾は中国の台湾であり、いかなる外部勢力も干渉する権利はない」

「台湾有事は日本有事という考え方は荒唐無稽で危ない。日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」

 これらの言葉は、4月28日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見に臨んだ中国の呉江浩駐日大使が語ったものだ。流暢な日本語で用意したペーパーを読み、時折、反応をうかがうように報道陣に視線を投げかけながら語った呉大使の言葉に、筆者は思わず鳥肌が立った。

 加えて7月1日から施行される改正反スパイ法だ。スパイ行為の定義を拡大したもので、国家の安全や利益に関わる文書・記事・資料・データ・物品などの窃取を幅広く摘発できるようにする法律である。

 こんな愚法がまかり通れば、筆者らは中国で取材ができなくなる。「報道の自由」を唱える前に、北京で写真を撮影したり、街頭インタビューをしたりするだけで拘束されかねない。

 今年3月、アステラス製薬の現地法人幹部が身柄を拘束された例などを見て、この先、中国出張を見合わせたり、中国から事業や生産拠点を移したりする企業が増えれば、中国にとっても損になる。

 G7サミットは、民主主義国家が結束して、そんな中国に強く警告する機会になる。

 それだけでなく、岸田首相の招待で参加するインドやブラジルなど「グローバルサウス」と呼ばれる東南アジアや中南米などの新興国を民主主義国家の陣営に取り込み、G7サミットを「対中国総決起大会」にする必要がある。

 なぜなら、呉大使の言葉に代表されるように中国の台湾統一への執念は揺るがず、「グローバルサウス」諸国の懐柔だけでなく民主主義国家まで調略しようとしているからである。

 その結果、現在の国際社会は、民主主義国家対専制主義国家という固定化された対立から、中国の切り崩し工作によって「液状化」しつつあるのだ。

 民主主義国家を切り崩す最近の中国外交は以下の通りだ。

○3月10日 中国の仲介でサウジアラビアとイランが国交を正常化(アメリカは完全に「蚊帳の外」。アメリカの中東での影響力低下は必至)
○3月21日 中ロ首脳会談(中国がウクライナ戦争で苦しむロシアに救いの手を差し伸べた形)
○3月26日 中国と中米ホンジュラスが国交樹立(台湾・蔡英文総統の訪米前に台湾と国交を断絶させ、アメリカもけん制)
○4月2日 日中外相会談(秦剛外相だけでなく李強首相らも姿を見せて林外相を異例の歓待)
○4月6日 中仏首脳会談(習近平総書記がマクロン大統領を歓待。北京だけでなく広州でももてなす)
○4月14日 中伯首脳会談(習近平総書記がブラジル・ルラ大統領と会談、協力関係強化で合意)
○4月26日 中国ウクライナ首脳電話会談(習近平総書記がサミットに先がけゼレンスキー大統領と会談、影響力示す)
○4月27日 中印防衛相会談(「対中国」では日米欧に近いインドを引き離す狙いか)

 台湾統一を目指す中国にとって最も嫌なことは、インド太平洋地域にアジア版NATOのような強固な軍事同盟が誕生してしまうことだ。そうさせないために、アメリカの国際社会での影響力を弱め、台湾を孤立させようと動き、フランスにまで秋波を送っていることが読み取れる。まさに「えぐい」というほかない。