海外でパナソニックの利益が
サムスン電子の5分の1なのはなぜか?

長内 例えば、パナソニックは日本で非常に信頼されている総合家電ブランドです。私も家電量販店で何を買うか悩んだとき、迷わずパナソニック製品を買います。なぜなら、安心できるブランドだからです。

 しかし、アメリカやヨーロッパでは、パナソニックは総合家電という売り方をしたことがない。日本ではさまざまな家電製品のラインアップを取りそろえていますが、海外ではそうしていないのです。その結果、世界中に展開しているサムスン電子と比べて、パナソニックの売り上げは半分、利益は5分の1しかありません(下図参照)。

 この差の原因は「規模の経済性」で考えられます。数多く作って売れば売るほど固定費の配分が小さくなりますので、それだけ利益が大きくなります。逆に言えば、数をたくさん作らないと1つの売り上げ当たりの固定費が高くなってしまい、頑張って売っても利益を得られないということになってしまいます。

 日本は一生懸命、新しいアイデアを考えます。だから、とりあえず作るのは日本だけれども、もうけるのは他国という日本の「負けパターン」ができてしまっているわけです。これを何とかしなければいけません。

 では、どうすればいいのか。新たなものを考える、何を作るのかというのは非常に大切な問題ですが、それ以上に重要なのは、その新たなアイデアに、うまくヒト・モノ・カネを動員して、大きなビジネスに育てていくことです。

 オーナー経営者でもなければ、自分の意思だけで事業の意思決定をすることはまずできませんよね。そのため、企業に勤めている人は、社内のメンバー、あるいは上司、経営者、ステークホルダー、お客様など、さまざまな人を説得するというプロセスが必要です。

 その説得のことを「資源動員の正当化」といいます。言い換えれば、「どのように大きなビジネスを創るのかを考える」ことが重要だということです。

 どう価値獲得し、そのために資源動員をどう考えればいいのか。また多様性と不確実の時代において、ものづくりや新規事業をどのように考えればいいのか。

 2019年、中国政府の招聘で学会報告をしたとき、「日本の匠の技のようなものづくりの仕方を中国に導入したい」という中国の希望に対し、私は「日本の匠の技を入れすぎると、もしかすると中国の良さがなくなるかもしれない」と話しました。

 なぜなら、現場に合ったものづくりの良さ、あるいはビジネスの戦略があるためです。これを組織論では「コンティンジェンシー理論」といいます。
 
 日本の匠の技は、「日本品質」という形でブランド化できていますが、必ずしも良い面ばかりがあるわけではありません。

 日本の場合、路面電車はICカードを導入して全乗客に絶対キセル乗車をさせないようにしていたり、食べ物を持って帰るドギーバッグに対しては、食中毒を起こさないために食べ物を絶対に持ち帰らせないというお店が多かったりします。

 対して海外では、路面電車は車掌さんが料金を集めて、「多少のキセルがあったとしても、それ以上の設備投資はもったいない」と考えていたり、ドギーバッグなら「持って帰っても大丈夫だろう」という考えで、あくまで自己責任のもと全体のバランスを見ながら対応するというケースがあります。

 日本は「とにかく品質第一、絶対これはダメ」ということになりがちです。この考え方ですと、製造業で何が起きるか。

 例えば、日本製のスマートフォンがなかなかもうからない理由の一つに「製造コストが高すぎる」ということがあります。海外製も日本製も実際に作っているのが同じ中国だとしても、日本メーカーだけは、絶対に作り損ないを出さないために、検査ラインを長くしすぎるのです。それでコストがどんどんかさんでしまい、その結果、顧客が買ってくれないほど高いコストの製品が出来上がってしまうというわけです。これでは本末転倒です。

 ですから、しっかりものを作ることと、しっかりもうけることの、バランス感覚、つまり、価値創造と価値獲得のバランスを考えることが重要なのです。