変革が常に正しいとは限らない
定性的で感覚的な価値が重要

長内 2000年代までの日本は、自動車とエレクトロニクス(電機)を比べると、エレクトロニクスのほうが優等生でした。しかしそれ以降、自動車よりもエレクトロニクスはもうからない産業になっていきました(下図参照)。

 これは、アーキテクチャーと時代の変化の違いが要因で、自動車は非常にインテグラルなアーキテクチャーのすり合わせによって、内燃機関を作ります。この内燃機関の変化というのは100年単位で起こってきたわけです。

 それに対して、エレクトロニクスというのは、さまざまな技術が10年ぐらいの単位でどんどん入れ替わってきます。さらにそれが、かつてのすり合わせで作るものから、各国の部品を組み合わせて作るモジュラー型のアーキテクチャーに変わってきています。

 この変化は、デジタル化によるところが大きいのですが、日本は技術的にというより、ビジネスの構造の変化に対応できませんでした。

 その結果、例えば日本の携帯電話会社は2000年代に11社あったのが、今や4社しかないといったことが起きてしまったわけです。部品や製造装置にシフトすることで生き残っている会社もあり、短期的にはいいかもしれません。ただ、コモディティー化というのは、BtoCだから起きるという専売特許ではなく、長期的に見れば、部品や製造業も他国に奪われる危険性があります。

 では、日本企業は何をしなければならないのか。やはり、ヒト・モノ・カネをしっかりつぎ込み、既存事業でしっかりもうけて数を売っていくことが大事です。

 新規の事業開発には原資が必要で、それは今もうかっている利益からしか出せません。だからこそ、今の事業で価値獲得をしておくことが重要です。

 また、価値の質が変わってきています。これまでは素朴に技術を開発していれば、その機能・性能の差によって製品価値は上がっていました。しかし今では、情緒的価値、感性価値、意味的価値といった、定性的で感覚的な価値が、重要になっています。

 では、どのようにしてこのような価値を生み出していくのか。今までと変わらなければいけないと考える人も多いでしょう。ただし、「変革が常に正しいとは限らない」ということに気を付けなければいけません。

 変革は、「既存の資源へのアクセスを失う」「既存の強みを使えない」ということでもあります。サムスン電子というのは、常に既存事業を大切にし、その売り上げから莫大な投資で新規事業を育てることを王道としてきました。つまり、新しい製品をしっかり世界にばらまくということをやっていたのです。

 誰がイノベーションを推進し、どのように正当化していくか。組織のトップなのか、ミドルなのか、現場なのか。これは、場合によって変わっていくと思います。

 目標が明確なときは、トップによるトップダウンが重要です。しかし、不確実性が高いときにさまざまなアイデアを検討するときは、現場からのボトムアップが重要で、その際はしっかり小さなアイデアでも正当化していくことが大事になります。