いっそう強化すべきソニーの半導体事業

 今後より注目すべきなのは、ソニーの半導体事業だ。決算説明の場で十時裕樹社長は、「24年3月期、画像センサーの新製品量産のよるコスト増から、半導体事業の収益性は一時的に悪化する」と述べた。ソニーは中長期的な目線で画像処理などに用いられる半導体の製造技術を強化し、より多くの新しい需要を創出する決意を強くしている。

 半導体業界は重要な変革期にある。巣ごもり需要の反動減や、世界の景気後退懸念などを背景に、短期的にはメモリ、ロジック、アナログの半導体市況の悪化はより鮮明となるだろう。

 ただ、中長期目線では、いずれ市況は底を打つ。AI利用、家庭でのIoT利用、自動車のCASE(ネット接続や自動運転、シェアリング、電動化)などは加速し、世界の半導体需要は確実に増える。台湾問題の緊迫化もあり、台湾から米国や日本などに半導体製造拠点を移す地殻変動も加速している。

 そうした展開に備え、ソニーは半導体の生産能力を強化し、需要をより効率的に取り込む必要がある。それはデジタルカメラなどの機器、コンテンツの創出体制の強化にも寄与する可能性が高い。

 さらに言えば、ソニーが新しい最終商品を世界に投じることができるかにも注目したい。かつてのウォークマンのように、全く新しい発想をハードとソフトの両面に落とし込んだ高付加価値のモノを生み出すことができるか。こうした最終商品を出せれば、販売増だけでなく関連サービスも増えて市場が形成される。

 ソニーの真の強さとは、そうした世界中の人々の生活様式までも大きく変えることにつながる、内なるパワーを持っていることだ。リーマンショック後の世界経済を支えたアップルのiPhoneの需要が飽和し、SNSやサブスクリプションモデルも行き詰まってきている。この状況下、ソニーが半導体などの製造技術をフルに生かして、世界をあっと驚かせる最終商品を生み出すことができれば、停滞気味のわが国産業界に多大な好影響を与えることは間違いない。