無関係を決め込む
“中間の人たち”が状況を悪化させる
では、このような世相の中で、謝罪はあっても償いはなく、理不尽に夢を奪われたままの被害者は誰に怒ればいいのでしょうか? 長年わたしもこの点がモヤモヤしていたのですが、最近二つ目の答えを見つけた気がしています。
漫画の『キングダム』に登場する桓騎という人気キャラがいます。秦の将軍の中では野盗あがりの悪いやつで、「首切り桓騎」の異名で周囲の国々からも恐れられていました。史実でもあるのですが、漫画の中でも捕虜となった敵兵10万人の首をはねるシーンがあります。
ある種、常軌を逸した残虐な行動をなぜ桓騎が行うのかという点は、長年物語の謎でもありました。伏線としては桓騎の心の底には強い怒りがあるとされていたのですが、その怒りの正体が最近の展開で解き明かされることになります(以下、67巻以降のネタバレを含みますのでご注意を)。
実は桓騎も子どもの時代から理不尽に虐げられてきた過去があり、当人たちいわく「底辺の」存在でした。桓騎が普通の人と違うところは、その底辺の人たちを虐げている権力者に怒りが向いているわけではないという点です。そうではなく、理不尽を見逃している中間の人たちが悪いのだというのが桓騎の考え方でした。
それを知って、仲間たちは驚愕(きょうがく)します。
「お前が怒りを向けると言っている相手は、底辺以外の全ての人間だぞ」
と言うのですが、桓騎によればその無関係を決め込んでいる中間のやつらが何もしないから、世の中の構造は変わらないというのです。だから桓騎は、敵の理不尽な行為に対しては敵兵10万人の首をはねても平気なのです。
この回の話に、わたしはかなり強くガツんと頭をたたかれたような気がしました。これが二つ目の答えだと思ったのです。
今回の話だって、イギリスのBBCによって告発されている加害者は一人ですが、無関係を決め込んできた中間の人たちは何万人単位で存在しています。わたしもたぶん、その一人です。
タレントになる夢を奪われたかつての少年たちは、誰から償いをうければいいのでしょうか。いま、タレント事務所にメディアの批判が集中していますが、事務所を離れたタレントをキャスティングしないのはそのメディア自身です。
最近、NHKのBSプレミアムで『あまちゃん』の再放送が始まったのですが、その告知記事の出演者欄で、主役ののんさんと鮨屋の大将役のピエール瀧さんだけがシルエットになっていたことが、SNSで話題になりました。