毎年、6月4~10日は「歯と口の健康週間」だ。
今年の標語は「手に入れよう長生きチケット 歯みがきで」(日本歯科医師会/日本歯磨工業会)で、健康寿命に欠かせないオーラルケアの励行を勧めている。
近年は嚙む、のみ込む、話すという口腔機能の低下を「オーラルフレイル(以下OF)」と呼び、老化の初期サインとして、適切なケアを勧める動きが盛んだ。
千葉県柏市に住む65歳以上の高齢者、およそ2000人を対象とした調査(柏スタディ)では、OFと健康との関連を調べている。
登録者は、口腔機能を評価する(1)咀嚼能力─食べ物を嚙み砕き、唾液と混ぜて丸める力の低下、(2)口腔巧緻性─唇や舌を巧みに、かつ素早く動かす能力の低下、(3)舌圧─舌を上顎に押しつける力の低下、(4)主観的な咀嚼能力の低下、(5)むせ、(6)残存歯の本数が20本未満の6項目のうち、3項目以上に該当する人をOFとして追跡調査を実施した。
その結果、登録時にOFとされた人は、2年のうちにそのまま身体虚弱(フレイル)に進行してしまうケースが非OFの2.41倍、筋肉量や筋力が低下するサルコペニアの発症が2.13倍、45カ月間で寝たきりではないが、生活する上で介護の手を必要とする介護度3以上の要介護認定が2.35倍、そして全死亡は2.09倍だった。
ここで常識的に「OFなんて、要は老化でしょう?」というのは簡単だ。確かに口腔機能の低下は「生理的な老化のはじめの一歩」ではある。ただし、OFのせいで食欲がうせたり、滑舌の悪さや食べこぼしを恥じて人付き合いや外出を避けるようなら、生理的な老化の域を超えた健康リスクになる。
また、口腔機能評価項目をよくよく見ると、中高年でも胸に刺さる内容が少なくない。ちなみに歯科疾患実態調査(2018年)によれば、50代後半の残存歯数は平均25.3本、2人に1人は歯周病持ち。つまり、ここからのオーラルケアが後々に響くわけだ。
OFの入り口は「お口の健康」への無関心だ。毎日の歯磨き時には歯や歯肉だけでなく、唇や舌の動きもチェックしてみよう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)