100%成功が至上命令 「大いなる無謀な試みだった」

 プロジェクト・レグルスは、全ての基幹システムを一気に刷新し、一斉に稼働させる、いわゆるビッグバン導入を採用した。木下さんは、「大いなる無謀な試みだった」と冗談っぽく笑う。

 ライオンほどの歴史ある大企業ならば、必然的にシステムも大規模になる。失敗を避けるため、新旧システムを併存させながら段階的に刷新していくのが一般的だ。しかしその場合、プロジェクトは長期化し、運用が複雑化する上、コストも高く付く。木下さんらはそれを現実的ではないと判断。プロジェクト・レグルスは、「ビッグバンを100%成功させる」という前例のない取り組みとなった。

「基幹システムに99%は許されません。例えば、当社の出荷管理システムは、1日約1万~2万件分の処理をしています。そのうち1%でもエラーを起こせば、大変なことになります。100%が保証できない限り稼働させられないのです。ただ、この規模のシステムを一斉に切り替えるとなると、失敗したからといって切り戻すことは事実上不可能です。万全を期す必要がありました」

 ここで木下さんは、SAPジャパン(以下、SAP社)の知見を最大限活用することにした。

「RFP(提案依頼書)を書く前段階から、コンサルタントの立場でSAP社に入っていただきました。結果、最初から伴走をお願いしてよかったと思っています。やはりSAPのことを一番よく知っているのは、SAP社なわけです。当社の基幹システムの現状や業務プロセスを全て共有した上で、システムを変えるのか、業務を変えるのか細かく突き合わせをし、ビッグバン導入の懸念を払拭していきました」

 プロジェクト・レグルスの伴走者となるパートナー企業の選考でも、SAP社の助言をあおいだという。

「SAP界隈のエコシステムについても、やはり一番詳しいのはSAP社です。どのパートナー企業がどんな案件を得意としているのか、どれくらいのリソースがあるのかも把握されているので、当社のシステム全体の構想とパートナー企業の体制とのミスマッチを回避できます。また、開発中は、パートナーの方が書いたコードをレビューするなどのサービスも提供していただけます。当然その分コストはかかりますが、100%の成功以外許されない本プロジェクトにおいては、必要な投資だと判断しました」

お揃いのジャンパーで、プロジェクトの一体感を醸成

 かくして、プロジェクト・レグルスはスタートした。2022年5月の終了までに、社員とパートナー各社あわせて延べ460人ほどが参加した。木下さんが意識したのは、企業の垣根を超え、チームとしての一体感を醸成することだ。

「所属組織に関係なくフラットにやりましょうということで、大部屋で席を並べ、情報はできる限りオープンにしました。特に大切にしたかったのは、プロジェクト内に無用の上下関係をつくらないこと。パートナー企業の方を社名で呼ぶのはNG、全員『さん付け』、メールも『お世話になっております』は禁止にしました」

 さらに、もともと絵心のあった木下さんは、プロジェクト名の由来となった獅子座の一等星「レグルス」を模したプロジェクトロゴを描き、それをプリントしたお揃いのジャンパーを制作。まるで学園祭に向けて一丸となったクラスのように、楽しい雰囲気を演出した。

プロジェクトのフェーズごとにチームを再編成

 プロジェクトチームの編成も工夫したポイントだ。最初は業務カットでチームを分け、工程が進むにつれて、開発する機能別にチームを再編成。さらに移行、運用保守、開発テスト、展開トレーニングと進むにつれて、臨機応変にチームを組み直していった。

 期せずして、コロナ禍に突入したプロジェクト・レグルスは、テレワークに移行。VPN回線不足で一時停滞したものの、チームとしての一体感が功を奏し、致命的なトラブルに見舞われることはなかった。しかし、ビッグバン導入そもそもの難しさと新型コロナの影響が相まって、当初の2021年1月稼働開始の計画からは、2度の延期を余儀なくされた。