新戦術を確立させた神戸に
イニエスタの居場所はなく…
開幕から低迷を続け、代行を含めて4人の監督が指揮を執った昨シーズン。4人目の吉田孝行監督の下で終盤に5連勝をマークした神戸は、最終的には13位で残留を決めた。しかし、けがで長期離脱を強いられたイニエスタは残留争いの正念場で、ピッチ上でほとんど力になれなかった。
迎えた今シーズン。コンディションが整わずに出遅れたイニエスタは、さらに夫人のアンナさんの第5子出産に立ち会うために開幕直後にスペインへ一時帰国。3月中旬に再来日するまでの間に、引き続き指揮を執る吉田監督はイニエスタ抜きの戦い方を確立させていた。
球際の強度が高い守備に加えて、前線から激しいプレスをかける。豊富な運動量とハードワークが求められたフィールドプレーヤーは、ボールを奪えば最前線の大迫をまずターゲットに据えた。
イニエスタが加入した直後に掲げられた「バルセロナ化」とは、まさに対極に位置する堅守速攻スタイルの下で神戸は開幕から好調をキープ。15試合を終えた段階で首位に立っている。
その間、イニエスタは3試合すべてが後半途中からの出場に、プレー時間もわずか38分にとどまっていた。戦い方を一変させた神戸で居場所を見つけられない現実と向き合った結果、キャプテンとして今後の戦いを見守る自分よりも、一人の現役選手としてピッチ上で躍動する自分を選んだ。
この数カ月間にわたってイニエスタのなかで繰り返されてきた葛藤が、会見の途中で流した涙に反映されていた。そして、クラブの公式YouTubeチャンネルでライブ配信された会見を通して発信されたイニエスタの断腸の思いは、遠くスコットランドの地まで届いていた。
退団会見から一夜明けた26日。セルティックの日本語版公式ツイッター(@CelticFCJPN)へ、イニエスタへ感謝の思いを捧げる古橋のインタビュー動画が投稿された。
5年前の“魔法の言葉”を含めて、神戸で共に過ごした日々を「本当に貴重な時間でした」と振り返った古橋は、もしイニエスタと出会っていなかったら、という問いへの答えに窮している。