何かを提案をした時、こんな言葉を言われたことはないだろうか?
「なんか、普通だね」
「他の商品・サービスと何が違うの?」
「この会社でやる意味ある?」

などなど。サービスや商品、仕組みなど、新しい何かをつくろうとするとき、誰もが一度は投げかけられる言葉だろう。
そんな悩めるビジネスパーソンにおすすめなのが、細田高広氏の著作『コンセプトの教科書』。この連載では、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的クリエイティブ・ディレクターの細田氏が、コンセプトメイキングの発想法や表現法などを解説する。新しいものをつくるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずだ。

【クイズ】人間には答えられて、ChatGPTには「絶対に答えられない」究極の質問とは?Photo: Adobe Stock

ロジカル・シンキングでは、もう生き残れない。

 AIの進歩によって、世界の労働力の18%にあたる3億人の仕事が自動化される*。2023年3月末に発表されたゴールドマン・サックスの報告書は、ちょうど多くの人が話題の生成系AIを触り始めたタイミングだったこともあり、少なからず衝撃を与えました。

 数あるAI関連サービスの中でも、人と会話するように使えるChatGPTは、すぐに日本のビジネスパーソンにも広がりました。情報収集からアイデア出し、レポート作成、事業企画の評価など、いくつもの活用法が提案され続けています。使いこなす人ほど、そのパフォーマンスに驚くと同時に、不安も感じたのではないでしょうか。「自分の仕事もやがてAIに奪われてしまうのではないか...」と。

 これまで、マシンに置き換わるのは、どちらかというと肉体労働や事務作業だというイメージがありました。けれどAIは違います。弁護士やコンサルタントが行うような「知的作業」こそが得意分野。膨大な情報を高速で分析し、推論し、論理的に答えを導く。その速度と精度で人間はとても太刀打ちできません。ひと昔前にもてはやされたロジカル・シンキングは、AIの時代には急速に価値を落としています。正解なら、蛇口をひねるより簡単に、しかも無料で手にできてしまうからです。

すべてに答えられるAIが、答えられない質問がある。

 では、AIの時代に「ひと」が担うべきことはなんでしょうか。それを考える上で有効なのはAIには答えられない問いを見つけるということです。

 結論から言いましょう。人間に答えられて、AIに答えられないのは、意志をたずねる問いです。あらゆることに答えを出そうとするAIが、「何がしたい?」というシンプルな問いには、なんと最初からお手上げなのです。試しにAIに聞いてみてください。ChatGPTであれば「私は人工知能であり、欲求や感情を持っていません。そのため、具体的な目標や欲望が存在しません」などと答えた上で、「どのようにお手伝いできますか?」と逆にこちらの意志を聞いてきます。

【クイズ】人間には答えられて、ChatGPTには「絶対に答えられない」究極の質問とは?

未来への意志こそ人間だけの仕事

 ChatGPTの活かし方をもう少し現実に即して理解するなら、次のような同僚を想像してみるといいでしょう。彼・彼女は、世界のあらゆることを知り、誰よりも優れた知能を持ち、恐ろしい速度と精度で答えを出すことができます。ただし、なんの想いもなければ、問題意識もありません。静かに適切な指示を待つのみです。

 そんな同僚が無料で雇える時代に、隣で人間がやるべきこと。それは未来への意志を表明することです。未来を妄想し、構想に変える。それさえできればAIがその実現を、恐ろしいまでの正確さで手伝ってくれるでしょう。人生の貴重な時間で、なにをつくりたいのか。社会にとって、意味あることはなにか。こうした本質的な問いに答える「コンセプトメイキング」こそ、人間の大切な仕事になるのです。

 このほかにも、『コンセプトの教科書』では、発想法から表現法まで、コンセプトづくりを超具体的に解説しています。

* https://www.cnn.co.jp/tech/35201935.html