リショアリングを本格化させるには、工場建設より金額のかさむ生産設備や研究開発への投資が後に続くかが鍵を握る。とはいえ需要が見込めない中で巨額の先行投資をするわけにはいかず、当面は景気の行方をにらんだ慎重な姿勢が続こう。一方、研究開発投資に二の足を踏むと、熾烈な技術開発のグローバル競争で取り残されてしまう。

 半導体やEVなど次世代戦略産業の競争には、スケールメリットを活かすための莫大な投資が求められる。また、最終的には勝者総取りとなる怖さもある。この点で米国政府による補助金は大きな助けになるが、効果には限界がある。サプライチェーンに連なる製造業全てに補助金を出すのも難しい。

 これまで米国企業は、製造工程というハード部分をアジアに委託し、自国は知的コンテンツの開発というソフト部分に特化してきた。背景には、比較優位に基づく国際分業という経済合理性があった。

 片や、地政学的動機や米国第一主義によってリショアリングを進めることは、経済合理性に反している。補助金だけで比較優位の原則を覆すのは難しく、市場のゆがみや非効率性を生み出すリスクもあることを忘れてはならない。

(オックスフォード・エコノミクス 在日代表 長井滋人)