何かを提案をした時、こんな言葉を言われたことはないだろうか?
「なんか、普通だね」
「他の商品・サービスと何が違うの?」
「この会社でやる意味ある?」
などなど。サービスや商品、仕組みなど、新しい何かをつくろうとするとき、誰もが一度は投げかけられる言葉だろう。
そんな悩めるビジネスパーソンにおすすめなのが、細田高広氏の著作『コンセプトの教科書』。この連載では、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的クリエイティブ・ディレクターの細田氏が、コンセプトメイキングの発想法や表現法などを解説する。新しいものをつくるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずだ。
偏愛こそ優れたコンセプトの始まり
だいぶ蒸し暑くなってきましたね。今年の夏も「白無地Tシャツ」(白T)を、シンプルに着こなす大人が街に溢れることでしょう。かつての私は、こんなにシンプルな装いがスタンダードになるなんて想像もつきませんでした。
ある知人から「白T専門店」を開きたいと思っている、と相談を受けたのは、8年以上前のことです。白Tだけでお店をつくるなんて前例がありません。これがデータとロジックだけで導き出されたアイデアであれば「うまくいくはずない」と感じたことでしょう。
確かに他に競合はいませんでしたが、市場に空白があることは必ずしもチャンスがあることを意味しません。しかし、彼には妙な説得力がありました。彼自身が白Tを偏愛し、1年を通して身につけていたからです。白Tのシルエット、素材、縫製、微妙な透け感に至るまで、ワインのソムリエのような多彩な語彙で違いを語ることができました。
白Tをみんなの正装に
彼が当初掲げていた問いは「どうすれば白Tをみんなの正装にできるのか?」というものです。もしも白Tが正装として認められたら、私たちのライフスタイルはもっとシームレスで自由になるはずだ、と彼は考えていました。たとえば、パーティや重要なビジネスの後に、すぐさまジムに行きたい時もあるでしょう。ジャケットの下が白Tならば、上着をパーカーなどに変えるだけでそのままカジュアルスタイルになります。どんな服にも合わせられる白Tは地上で最も万能な服。だからこそ白Tをあらゆるドレスコードを超える服にしたい、というのです。彼の偏愛は白Tに新しい意味をもたらそうとしていました。合理的な思考や、戦略発想では決して導かれない考え方です。
2016年に東京の千駄ヶ谷で生まれた#FFFFFFT(シロティ)は瞬く間にあらゆるメディアに取り上げられ、休日だけの営業にもかかわらず行列の絶えないお店になりました。ちなみに、このときの問いからつくったお店のコンセプトは“SHOW YOUR COLOR”。シンプルな白Tだからこそ、自分の個性を表現できると訴えたのです。白は無個性の色ではなく、むしろ個性を表現する色なのだという提案は多くのファッショニスタの共感を集めました。
日本のみならず海外のガイドブックやファッション誌といったメディアにも絶え間なく掲載され、いまやアジア全域から注目されています。
客観はコモディティ、主観は希少資源。
白T専門店の運命を分けたのは問いの設定でした。以下の2つの問いを比較してください。
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主観の問い::白Tをみんなの正装にするには?
「◯◯を流行させるには?」という問いはアパレル業界ではよく見かける一般的な問いです。比べるともうひとつの問いは、いい意味でズレていますね。問う人の主観が色濃く反映されています。ですが、こうした偏った問いこそがアパレル業界に風穴を開ける様子を私自身、間近で見てきました。
データとAIで客観的な答えはすぐに見つかります。しかし主観が生み出すイレギュラーな正解は、データからは導き出せません。常識的な問いで先が見えなかったら、あなただけの個人的な問いから始めてみましょう。
このほかにも、『コンセプトの教科書』では、発想法から表現法まで、コンセプトづくりを超具体的に解説しています。