「成果に直結する理念」の策定・浸透を通して7年で100以上の組織経営を改善し、新刊『こうやって、言葉が組織を変えていく。』を書いた生岡直人氏が、あいまいで抽象的だと思われがちな「経営理念」の意味を図解します。(構成/編集部・今野良介)

ドラッカーの定義

経営理念を分解すると、ミッション・ビジョン・バリューに分かれます。

以下は、経営学者のピーター・ドラッカーによる定義です。

【ミッション】
事業の「目的」「使命」を指す。組織のメンバーがミッションを理解することで、明確な目標を立てられるようになり、各人が自分の仕事に取り組めるようになる。

【ビジョン】
「ミッションを実現させた将来像」を指す。組織においてリーダーがミッション実現後の理想的な姿を示し、メンバーとそれを共有することが重要。

【バリュー】
「価値基準」を指す。組織のメンバーがビジョンを共有し、ミッションを実現していくには、この「価値基準」が明確であることが求められる。

ミッションは「過去」、ビジョンは「未来」、バリューは「現在」

このドラッカーによる経営理念の定義は、一般的な通念として広く理解されているものですが、これらを私自身の言葉で定義していきます。

まず、私が考えるミッション・ビジョン・バリューの定義と関係性を図で示します。ミッション・ビジョン・バリューを「時間軸を用いて」示したのが下図です。この3つは、切り離すことができないものです。

ミッション・ビジョン・バリューを「ひと言」で説明する理念は「時間軸上」で考える

ミッションとは、「なぜ(=Why)」を言語化したものであり、「目的」や「使命」に言い換えられます。

「なぜその事業を始めたのですか?」など、想いを言語化するための「なぜ」を用いた質問の多くは、回答者を過去から現在までの思考に引き戻します。そのため私は、ミッションを「過去」をひも解いて言語化したものだと考えています。

ビジョンとは、「何(=What)」を言語化したものであり、「目標」や「運命」と表現できます。つまり、何を実現するかという「未来」を言語化したものだと言えます。

さて、これらビジョンとミッションは、「誰が」言語化すべきものでしょうか?

これもまた、時間軸を用いて判断できます。事業を始めた時点で、もしくは社長となることが決まった過去の時点でその企業にいたのは、社長です。「なぜやるか?」という覚悟は、社長自身にしか言い表せないものがあります。ですからミッションは、社長が責任と覚悟をもって言語化すべきものです。

一方、ビジョンは経営陣全員で言語化するものだと私は考えています。組織の未来に責任を負っているメンバーで言語化する必要があるということです。逆に言えば、ビジョンを言語化するプロセスに経営陣を入れないと、経営陣の自立と責任を削いでしまうことにもなりかねません。

最後にバリューです。バリューとは「どのように(=How)」を言語化したものであり、「価値観」や「行動指針」を表わします。

バリューは社長、経営陣をはじめ従業員、パート・アルバイトを含めた全員で言語化します。時間軸上の「現在」にいる全員で言語化し共有するべきものだからです。

つまり、理念を分解して時間軸上に置くと、ミッションは「過去」、ビジョンは「未来」、バリューは「現在」を表しているのです。

実際にバリューの言語化プロセスに入ったときに、パートの方から「いやいや、私なんて大したことしてないので……」と謙遜されたり、「こんな時間いいから早く現場に戻らせてくれよ」と不平を言う従業員の方がいたりもします。

そういったケースで私は、「あなたの考えを案として出してくれないと、会社のバリューは完成しない」と伝えます。おべっかを使っているのでも大げさに言っているのでもなく、心底そう思っているからです。

当然ながら、社長や経営陣だけで会社の仕事のすべてをやっているわけではありません。社長も経営陣も知らない、パート・アルバイトを含めた従業員が持つこだわりや考えを通して生み出されている価値が確実にあります。

それらを当事者が出してくれることで、会社全体として本当の価値観が集約され、現場で活用できる「生きた」バリューができていくのです。

拙著『こうやって、言葉が組織を変えていく。』では、7年間で100社以上の経営を支援してきた私の経験を踏まえ、理念策定・浸透・実践のすべてのプロセスについて余すところなくお伝えしていきます。

社長、経営陣、管理職、プロダクトマネージャー、キャプテンなど、周囲の期待を背負い、組織のメンバー全員の力を結集して成果を出し続けたいリーダーの皆様、ぜひご活用ください。(本文終わり)