D社労士の返答を聞いたA社長は、残念そうな表情を浮かべた。
「B君にパソコン代を払ってもらうのは諦めます。ところで、仮に社員に弁償金が発生した場合、その金額を会社が社員の給料から差し引くことはできますか?」
○ ただし従業員側から「天引きにしてほしい」と申し出があったなど、同意があれば相殺は可能である。会社側が半ば強制的に同意を取り付けた場合は、従業員の同意を得たことに該当せず違法になる
参考:労働基準法24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない
Aはうなずいた。
「就業規則は早速法律違反にならないように変更します。それに給料天引きの件もよく分かりました」
D社労士と話した翌日、A社長はBに対して新品パソコンの代金は請求しないと告げたが「注意が足りない」「二度と飲食物をこぼすな」など延々と説教した。しかし……。
その日の午後、
A社長に電話がかかってきた
その日の午後。自席でパソコン作業をしていたA社長は、自分宛てにかかってきた電話を取ろうとしてマグカップを倒してしまった。ノートパソコンのキーボードに、大量のコーヒーがこぼれて染みていく。
「やっちまった」
こぼしたコーヒーを拭き取り、ふと顔を上げると、向かいの席で作業をしていたBが「ざまーみろ」的な表情で眺めていた。A社長はBと目が合うと、慌てて苦笑いでごまかした。一方的にBを責めたことを反省したA社長は、翌日から自席でのコーヒーブレークを禁止し、休憩室を使うよう従業員に周知した。