「半年前、うちの社員が商品のパソコンを運搬中に転んで壊したときに、社員に弁償責任があるかどうかを顧問社労士に相談したら、弁償させるのは難しいって言われたよ。それに無理に社員の給料から弁償させると、法律違反になることもあるんだってさ」
「法律違反だと!」
「だからAも社員の給料からパソコン代を差し引く前によく調べた方がいい。そうだ、これからD社労士が来るから聞いてみれば?」

従業員が会社に損害を与えた場合、
会社は従業員へ損害賠償を請求できる?

 用事で乙社を訪れたD社労士は、Cから用事が終わったらA社長の相談に乗ってほしいと頼まれ了承した。それまでA社長は応接室で待機し、30分後D社労士が入ってきた。

 A社長はD社労士にBの件について詳細を説明し、「業務中に壊した会社のパソコンを新しくするのに、その代金をB君の給料から差し引いて弁償させるのはダメなんですか?」と尋ねた。D社労士は次のように答えた。

「従業員が故意や重大な過失で会社に損害を与えた場合、就業規則に定めがあれば従業員に対して民法による損害賠償の請求は可能です」(民法415条・709条)
「当社の就業規則には、『故意または重大な過失により、従業員が会社の備品を壊した場合全額弁償すること』と書いてあります。だからB君に壊したパソコン代を全額弁償させるのはOKですよね?」
「仮に弁償が認められたとしても、その限度額には相場があって、判例等により原則は実際の損害額の25%が上限になります」
「全額払ってもらえないのはどうしてですか?」
「会社と従業員の負担能力に差があることと、会社は従業員を働かせることで利益を得ているので、従業員が起こした事故や備品などの故障・破損などに対しての危機管理について、一定の責任を負うべきとされているからです」
「じゃあ、B君に弁償してもらえるのは30万円のパソコン代の25%で7万5000円ですね」
「30万円は買ったときの金額で、使用した分実際の価値は下がっていますし、25%はあくまでも目安。状況によってはその割合より下回るケースも多いです」