複数事業を持つソニーはどのように
付加価値を生んだのか
こうした主張に唯一勝つ道は、それぞれの事業価値が市場にきちんと反映され、事業間の相乗効果も含めて、コングロマリットならではの付加価値「コングロマリット・プレミアム」を生む状態にまで持っていくことです。
これに成功したのが、ソニーグループです。若いビジネスパーソンの方はご存じないかもしれませんが、ソニーは2009年の3月期から2015年3月期の7事業年度中、実に6回、赤字に陥っています。
私は当時、まだ銀行サイドにいて、ソニー向け融資を審議する会議などにも出ていましたが、正直、同社の将来については不安も感じる状況でした。
その後、ソニーは、保険などの金融事業が収益を下支えするなか、ゲームや音楽などのエンターテインメントを中心に見事に復調しましたが、2019年に米国のアクティビストファンドであるサード・ポイントから、半導体部門のスピンオフと保険事業の売却、主力のエンターテインメント事業への注力を求められました。
CFOからCEOに就任したソニーの吉田憲一郎社長兼最高経営責任者(当時)は、「半導体事業は成長への鍵であり、保険事業はソニーグループの収益の安定性を含む企業価値に資するものだ」として、この提案を拒否しました。
サード・ポイントは不満を表明しましたが、その後、世界で4割超という圧倒的なシェアを持つCMOS画像センサーを中心とする半導体事業は好調で、ゲームや映画が大幅減益のなか、ソニーグループ全体の利益を支えています。
株価も順調で、時価総額は約16兆円(2023年4月末現在)と10年で10倍超になっています。
※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。