「話したら怒られる」が、隠蔽につながる

 少し話が飛躍しますが、企業で起きる隠蔽(いんぺい)のほとんどは、「話しても大丈夫」といった心理的安全性が満たされないことから始まります。先ほどの「仕事を抱え込む部下」も、これから紹介する「ミスをなかなか報告できない部下」も、問題の本質は同じです。

 ある日、ミスしがちな部下のCさんが青い顔をして、リーダーAさんのところにやってきました。CさんがAさんに「相談があります」と伝えた瞬間、Aさんは「何? どうしたの?」と聞き返しました。

 その反応にCさんは身構えてしまい、「すみません。いや……」と言って、いつまで経っても本題に入りません。どうやらCさんがお客様に間違った商品案内をしたことで、トラブルが発生してしまったようです。

 部下のミスに対して、冷静を装って解決しようとする気持ちはわかりますが、怒っている感情は伝わっています。大切なのは部下を「どう解決に導くか」「今後、同じようなミスを起こさないよう対策を立てること」です。

 そこで、リーダーは部下が話しやすい雰囲気をつくらなければなりません。思い直したAさんは、「なんかやらかしちゃったか?」と少し柔らかめに反応しました。これは先ほどよりも、部下の報告を受け入れる姿勢ができているので、報告のハードルが下がります。

 しかし、部下の報告を聞くうちに、「おまえは、何をやってるんだ!」とAさんが怒りを爆発させてしまう可能性は否(いな)めません。結局のところ、AさんがCさんの報告を聞いて、怒りを爆発させないか、嫌みを言わずに耐えられるかが、カギとなるのです。

 では、賢いリーダーはどうするのか。よいリアクションは、「報告ありがとう。聞く態勢をつくってくるね。3分経ったら話を聞こうか」などと、いったん席を外すことです。つまり、自分の心を落ち着かせるのです。

 コーヒーを淹れる、飲み物を買ってくる、お手洗いに行くなどもいいでしょう。部下のいないところで「また、あいつか!」とワナワナしてもいいでしょう。あるいは、「冷静になれよ」と自分自身を落ち着かせる声かけをする、「さあ、吉田氏、今日はきちんと冷静に対応できるでしょうか」と第三者的な視点でアナウンサーのように実況中継するのも一興です。

「部下のミスは、即対応すべきではないか」と反論する方もいるかもしれません。それも大事かもしれませんが、より大事なのは部下が事実を話すことです。

 そのためには、まず自分が「聞く態勢」を整えること。3分くらい遅れても大した支障はありません