同年、この定義に従って作られたのが、白金製のシリンダーである「キログラム原器」である。この最初の原器は、パリの国立公文書館に保存された。
その後、1875年のメートル条約において、キログラムの定義は再度確認され、新たな原器である「国際キログラム原器」が作られた。この原器は、白金90%とイリジウム10%で構成されている。そして、この原器は多くのコピーが作られ、世界中に配布されることになった。
しかしその後、この「国際キログラム原器」には、100年間で平均50マイクログラムの重量が増加したことが確認された。些細な重量の変化にも思えるが、この誤差は現代科学では「許容できない劣化」と考えられる。そこで、またしても新しい基準の作成が必要となったのだ。
そのとき、科学はどう発展していったのか?
キログラムの新たな定義が求められる中、科学が飛躍的な進歩を遂げていた。
350年前に、「リンゴが木から落ちる姿を見て重力を発見した」という逸話で知られるニュートンは、物体の均衡と動きを研究する「古典力学」の基礎を作り上げた。
19世紀の終わりに至るまで、この古典力学によって、天文学から産業革命の機械まで、世界は完全に説明できるものになった、と考えられてきた。
実際、この理論によって、物体の動きの予測は、ある程度まで説明できるようになった。とくにこの古典力学が機能するのは、惑星の動きや宇宙空間である。
たとえば、1969年7月のNASAによる月面着陸。人類が月に降り立ち、無事に地球へ帰還できたのは、古典力学による貢献も非常に大きかった。
ところが、古典力学という基礎は、突如として崩れ始める。それと同時に新たに登場したのが「量子力学」である。
古典力学が物体の動きを確定的に予測しようとしていたのに対し、量子力学によってもたらされたのは、その不確定性である。原子や量子など、極微細な世界では古典力学はそのまま当てはまらないのだ。