このように、身近な兵役経験者の話を聞くと、意外にも充実した兵役生活を送っている印象だ。これはやはりコンプライアンスの強化によるものであろう。

 これまでにも部隊内でイジメに耐えかねた兵士が銃を乱射して死者を出す事件を起こすなど、事件や事故、不祥事が明るみに出る度に、国防部は非難にさらされてきた。政治家や企業家の子息、芸能人が兵役義務を不正に免除されるという事件も過去度重なったことからも、いかに兵役にはネガティブなイメージが先行しているかが分かる。こうしたイメージを払拭すべく、国防部も懸命になっていることがうかがえる。

少子化の影響で人手不足が深刻
月給もアップし、兵長は100万ウォンに

 このように、待遇が改善されてきている兵役。中高年世代からは「我々の時代には考えられないような好待遇だ」と感嘆の声が聞こえてきそうだが、こうした変化の背景には、部隊内でのパワハラ、暴力行為といった過去の問題を改善するだけでなく、「人手不足」という切実な事情もある。

 兵役対象者の数はこの10年で約9万人減少しており、少子化の影響を確実に受けている。これまで兵役対象者から免除されていた中卒者も現在では兵役対象者となり、免除の条件もだんだんと狭まっていて、人員確保に苦慮していることがうかがえる。

 また、兵役期間中の兵士たちは公務扱いとなるため、国から毎月月給が支給される。陸海空軍で若干の差があるが、陸軍を見てみると、入隊初期の二等兵の月給は2022年度で51万100ウォン(日本円で約5万5400円)。昇格していくと支給額もアップする仕組みで、最上位の兵長では67万6100ウォン(約7万3400円)となっている。

 今年、2023年度はこの支給額が引き上げられ、二等兵で8万9900ウォン(約9800円)アップの60万ウォン(約6万5100円)、兵長で32万3900ウォン(約3万5160円)アップの100万ウォン(約10万8500円)となった。兵長への支給額が100万ウォンに達したことに国民からも大きな関心が寄せられた。支給額のアップは昨今の物価高も反映したものでもあるが、これも待遇改善の一つであろう。

 切実な人手不足に対し、世間の関心も高い。最近ではYouTubeのアニメで、兵役人員を確保するために、人間だけでなくペットも一緒に入隊するという奇想天外なエピソードがあったり、「女性も兵役義務とすべきだ」という議論がなされたりしている。また、外国人労働者や、結婚に伴い韓国に移民する外国人が増加していること、兵役を終えることを条件に韓国籍を含めた二重国籍の保持が容認されるようになり「将来的には『海外から傭兵を連れてくる』という時代が来るかもしれない」という声も上がるようになってきた。