今春、米ニューヨーク郊外のハイドパークに酒蔵を建て、純米大吟醸の製造を始めた、「獺祭」で知られる旭酒造。米国で「DASSAI BLUE」を打ち出すべく、信頼のおけるベテラン人材たちを先に送り込み、桜井博志会長みずから移住して一緒に米国製造に取り組みます。なぜ会長みずから米国拠点に行くのか? その理由について、桜井会長のお話をもとに、メルマガで綴られた内容も織り交ぜてお送りいたします。
これからの時代、日本酒は世界をマーケットにしないと生き残れません。海外で本格的に戦うには、海外で製造できなければいけない。それを踏まえて、今春、米国に製造拠点をつくりました。
場所は、ニューヨーク中心部から150キロほど離れた郊外のハイドパーク。CIA(カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ)という、飲食業の経営も含めて料理技術を教える著名な料理専門大学がすぐ近くにあり、将来の料理家やレストラン経営者に獺祭を知ってもらえる利点もあります。
ニューヨークの酒蔵建設は遅れに遅れたものの完成のめどがつき、今年3月に私もニューヨークにやってきました。蔵の中に入ってしまうと、そんなに日本の蔵との違いはありません。
気が重い…でも自分が行くべき理由
実は、恥ずかしいことに、私は英語が全くできないし、そのうえ車好きなのに慣れない左ハンドル・右側通行になると思うと、渡米は気が重くて仕方がなかったのです。
じゃあなんでアメリカに行くのか。
何しろ、アメリカに赴任しているのは、技術的には全幅の信頼を置いているベテラン人材3人です。
今さら私が行く意味あるのか? 日本の企業では、こういう局面で会長が行くことは珍しいでしょう
彼らを信用してないの?
いえいえ、信用してます。
初めての挑戦となれば、派遣されるスタッフが優秀であればあるほど、今までの評価が確立していればいるほど「失敗したくない」というのがスタッフの本音です。失敗しないよう万全の準備はしたつもりですが、何かが起こるのが常です。
そのあたりはスタッフも本能的に知っていますから、失敗する確率を下げようと、高いレベルの挑戦をしなくなるもの。そして、挑戦できない理由を探してきます。悪いことに優秀であればあるほど、文句のつけようがない理路整然とした理由を探してくるでしょう。
これではアメリカの酒蔵を80億円もかけてやる価値がない。
だから私が行くんです。
彼らと一緒に失敗して、対処方法を模索して、より高い到達点に届かせるために行きます。無茶を言って、責任をとる役目です。
皆さん、72歳の年を自覚してない懲りない蔵元のアメリカ生活、また現地で起こったこともご報告するつもりです。ご期待ください。