日本版予告で封印された「フェミニズム臭」

 公開後、ある男性漫画家のツイートが物議を醸した。

 実写映画化された人気漫画『GANTZ』などで知られる奥浩哉氏が、映画『バービー』を「強烈なフェミニズム映画だった」と失望感を示したのだ。

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映画、バービー観た。最初の方はお洒落だし可愛いし笑いながら観てたけど後半になるにつれてだんだん冷めていった。なんか強烈なフェミニズム映画だった。男性を必要としない自立した女性のための映画。こんなの大ヒットするアメリカ大丈夫なの?(参照
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 このツイートには、自立した女性の何がいけないの?といった批判が寄せられているほか、「これラーメン屋でラーメン頼んだらラーメン出てきたみたいな感想だろ」というツッコミも見られる。

 つまり、『バービー』がフェミニズム映画であるというのは、一部では当然過ぎるほど当然の情報だった。

 しかし、それを知らずに見に行ってしまう日本人客がいるのも無理はないだろう。

 なぜなら、日本版予告では、同作の批評性や風刺部分はごっそりと削ぎ落とされている。もちろん、フェミニズム臭はみじんもない。この予告から「ビジュアル重視で、お気楽に見られるエンタメ映画」という印象を持つ人は少なくないだろう。

 ネット上で読むことのできる映画批評家や研究者によるレビューでは、当然フェミニズム作品であることに言及されているが、宣伝目的の記事ではそうではない。

 例えば「アニメージュプラス」の記事『【映画バービー】興行収入1位スタート!関連商品も売り切れ続出』では、作品のコンセプトを「『あなたは何にだってなれる』という前向きで力強いメッセージ」「ファッションだけではない多様性を表現し、未来に向かう人々と共に歩んで行くというバービーのメッセージ」と、かなり大づかみで説明し、「文句なしのエンタメ作品!」といった評価を強調。そのフェミニズム性には一切触れていない。

 フェミニズムを前面に押し出してもヒットするアメリカとは違うので、日本ではフェミニズム臭を極力消したほうがよい。日本の広報・宣伝担当はそのように考えたのだろうし、それは戦略としてあながち間違ってはいないのだろう。元から『バービー』に批評性を求めて見に行くと決めている人は、どのような宣伝であっても見に行くのであろうが、なるべく間口を広く設けた方が訴求力がある。

 ただしその弊害として、フェミニズム嫌いの層が知らずに見に行ってしまう……ということもあるのだろう。