「議会主義の結果として、あらゆる公的事項が党派の妥協の産物となり、政治はエリートの仕事ではなく、かなり軽蔑された人々の軽蔑された事業になっている」「今日、現代大衆民主主義の発展の結果、議論と公開制にその精神的基礎を置くという代議制民主主義の原理への信念は失われた」
実際、SNSの登場は、代議制民主制度の根幹を変えつつあります。人々がSNSで考えを発信し、政治家もSNSを通じて発信する。SNSは、短い言葉であるだけにわかりやすく、しかも世の中に「絶対正義」があると思っている人が多いため、「代議制民主主義と比べて、より自分の正義を訴えることができる」とSNS好きは思っています。
しかしその結果、民主主義国家の政治はどうなったでしょうか。トランプ、エルドアン、安倍晋三――。SNSを多用する政治家によって国民の分断は深まり、より独裁色の強い政権が誕生する結果になってしまいました。
安倍晋三元首相の逸話としては、常に代理店が密着しており、パーティに出るときは出席名簿からSNSのフォロワーが多い人物を教えられ、必ずその人物と写真を撮っていたというのが実相です(実際、その代理店の証言を聞いたので、間違いないでしょう)。
SNS常用者から見れば、「今日も安倍さんは色々な人と会っている」、あるいは「自分が好感をもっている人物と近い」という印象を持ちます。また、そのような人々が見るのはたいてい自分が好きな人のSNSなので、当然安倍氏への親近感もわくでしょう。
野党よ、自民党を政権から叩き出せ
「1年で日本の大掃除を」
こうしたやり方が悪いとはいえませんが、お金がないとこんなことはできません。国費を使える政権側が圧倒的に有利になってしまうのです。国民提案制度があれば、昨今の入管法や同性婚問題など、国民感情としてはまだ微妙な性質の問題についても、もう少し柔軟で、広い立場の議論が可能になったのではないでしょうか。
私は、岸田政権は憲法改正などを議論するより前に、代議制民主主義とそれに伴うメディアの崩壊にこそ、取りくむべきだと考えています。
そして、野党の皆様には失礼ですが、「今度の総選挙では1年だけ、野党に政権を任せてください。1年で日本の大掃除をします。そして、1年で再び解散して信を問います」といった低姿勢でいてほしいと思います。
今国民が望んでいるのは、とりあえずの国会の大掃除。そして、三権分立の確立だと考えます。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)