2016年の発売以降、今でも多くの人に読まれ続けている『ありがとうの奇跡』。本書は、小林正観さんの40年間に及ぶ研究のなかで、いちばん伝えたかったことをまとめた「ベスト・メッセージ集」だ。あらゆる悩みを解決する「ありがとう」の秘訣が1冊にまとめられていて、読者からの大きな反響を呼んでいる。この連載では、本書のエッセンスの一部をお伝えしていく。
人間は、生まれながらにして「優しさのかたまり」
あるとき、良寛和尚の兄が、良寛和尚に「頼みごとをした」という話を聞きました。
「自分の子(良寛和尚の甥っ子)が家業を手伝わない。いつもブラブラと遊んでばかりだ。食事を用意するから、そこで息子と一緒に食事をしてもらえないか。何か『いい話』でもして、息子を真人間にしてもらいたい」
良寛和尚は、兄の申し出を引き受け、甥と2人で食事をすることになったのです。
食事の間、良寛和尚は、世間話を2つ、3つしただけで、説教めいたことはひと言も口にしませんでした。
甥は、「良寛に何か言われたら、反論し、怒鳴り、暴れてやろう」と思っていましたが、良寛和尚が何も言わなかったので、拍子抜けしたそうです。
ところが、帰ろうとした良寛のワラジを甥が結んでいるとき、甥は心を動かされました。良寛和尚が、さめざめと涙を流していたのです。
甥は、その涙を見て、「これからは真人間になろう」と決意し、そのように生きたそうです。
どうして甥は、良寛和尚の涙を見て「真人間になろう」と思ったのでしょうか。
これは私の推測、私見ですが、良寛和尚は、甥の反抗的な態度、拒否的な態度の中に、彼の「哀しさ」を見たのではないでしょうか。
人間は、もともと、生まれながらにして「優しさのかたまり」です。敵意や憎しみは、あとから身につけたものです。
甥は、ある家に生まれつき、家業を継がなければならなくなった。けれど、継ぎたくはない。嫌だ、嫌だと言っている自分に、家族も親戚もつらく当たる。誰もわかってはくれない。その結果として、甥は、敵意や攻撃性を外に出すようになったのではないか。
良寛和尚はそのことに気がついたのだと思います。
良寛和尚は、甥の心のやるせなさ、哀しさに堪えきれず、涙を流した。そして甥は、良寛の涙を見て、「この人はわかってくれた。この人のためにも真人間になろう」と思ったのではないかというのが、私の推測です。
良寛和尚は、説得も、説教もしませんでした。それこそ「何もしなかった」のです。
ただ、その人の根底にある「哀しさ」をわかってあげた。その結果、反抗的な態度を取っていた甥の心が、一瞬で、しかも根本的に変わり、真人間になったのではないか。私たちには、こんなにすごい解決法があるようです。
じつは、「相手の哀しみをわかってあげる」だけで、解決できる問題というのが、私たちのまわりに、たくさんあるのではないでしょうか。