歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】なぜ歴史小説を読むといいのか?Photo: Adobe Stock

日本人の考え方・生き方
が凝縮されている

【前回】からの続き 歴史小説の大きな魅力の一つは、過去とのつながりを意識できるところです。

一般的な小説は、書き手の想像にもとづいたフィクションです。

一方、歴史小説にも当然フィクションの要素はあるものの、過去に存在した人物、もしくは今も失われていない日本人の考え方や生き方が描かれています。

過去に学んで
今の自分を省みる

「私の先祖は、こんな生活をしていたんだ」
「300年前くらいに、本当にこんな時代があったんだ」
「昔の人って、こんなふうに考えていたんだな」

そうやって今の自分を省みるきっかけになるのです。

歴史小説に出てくる
食べ物を食べてみた

たとえば、私は中学時代、歴史小説を読んで登場人物がアワ(粟)ヒエ(稗)を食べている描写を読み、どうしてもアワとヒエを食べてみたいと思い、祖母にお願いしたことがあります。

「おばあちゃん、アワとヒエを食べたい」

祖母は「そんなもん食べてどうすんねん?」と文句を言いつつ、アワとヒエを炊いて食卓に出してくれました。

祖母に一喝されたワケ

ひと口食べてみると、意外なほど普通に食べることができます。

「そんなにマズくないね」。祖母に、そう感想を伝えたら一喝されました。

「そんなん、毎日白いご飯食べて、たまに食べるからや! こんなぼそぼそするもん、毎日食べてたら嫌になるに決まってるやろ!

こんなふうに実際に体験しないまでも、想像レベルで過去と現在の比較はできます。

過去に遡って
人間を幅広く描く

過去と比較して、「今の僕らは幸せだな」「今も昔も変わらないな」「もしかして、今のほうが悪くなっているかも?」などと考えることができるのです。

歴史小説というと、小説の中でも狭いテーマを扱うジャンルだと思われるかもしれません。

しかし、過去を遡さかのぼることで、むしろ人間を幅広く描くことが可能なジャンルでもあります。

歴史小説には日本人の考え方や生き方の変遷が凝縮されています。読者がそれをかいつまんで読めるところに強みがあるのです。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。