『VIVANT』斬新なドラマだが
典型的なメッセージ

 この映画に限らず、80年以上前から日本人の好む愛国プロパガンダの定番ストーリーがある。それは、誇り高くて、文化や民族の異なる人々にも寛容な日本人が、「悪」の道に堕ちたアジアの同胞に手を差し伸べて、正しい方向に導いてやるというものだ。

 その定番ストーリーが『VIVANT』のクライマックスにもかなり時間を割いて描かれている。

 また、もうひとつの定番が「アジアの子どもを救う日本人」という設定だ。戦中の愛国プロパガンダ映画に登場する日本軍・日本兵もアジアの子ども守るため、子どもの命を平気で奪う「鬼畜米英」と戦うストーリーがお約束だ。

『あの旗を撃て』には、日本軍を恐れて逃走する米軍の車にひかれて、歩けなくなるフィリピン人の子どもを、日本兵が助けて輸血をして歩けるようになるまで治療をして、最後は歩けるようになる、というエピソードもある。

 この定番ストーリーは『VIVANT』にも引き継がれている。詳しくはご自分でググっていただきたいが、ベキはバルカ共和国で内戦が起きたことで、孤児になった子どもたちを救うため、孤児院を運営していた。そして、その資金をつくるために裏でテロ組織もやっているという設定だ。主人公も孤児になったジャミーンという難病の少女を救って、日本に連れてきて治療も受けさせている。

 つまり、『VIVANT』というドラマは、日曜劇場としてはすごく斬新で、画期的な試みであった一方で、愛国プロパガンダとしては80年前から変わらない、極めてオーソドックスな作品ともいえるのだ。

 もちろん、これはあくまで筆者の「考察」に過ぎない。単なるエンタメ作品を超えて、国家や過去の歴史まで思いを巡らせることができるという作品の奥深さこそが、『VIVANT』の最大の魅力かもしれない。続編が今から楽しみだ。

(ノンフィクションライター 窪田順生)