日本の美徳で諭して「改心」
実は80年前の映画でも…
理由はひとつしかない。我々を気持ちよくさせるためだ。「日本人」であることに誇りを持たせて、他の国よりも多様性と共感性を持つ優れた民族だと思い込ませたいのである。
なぜそんなことが言えるのかというと、80年前の愛国プロパガンダ映画でもこのベキの演説シーンとよく似た「日本スゴイ」のオンパレードだからだ。
1944年に日本とフィリピンで公開されてヒットした『あの旗を撃て』という戦争映画がある。アメリカの植民地のフィリピンに日本軍がやってくる。当初はアメリカ軍に支配されているフィリピン兵たちは、日本軍と交戦するが、日本兵の高貴な優しさと、フィリピンを同じアジアの同胞として解放に来たという志の高さに心を打たれて、ともに手を取り合って、アメリカ軍を追い出すという典型的なプロパガンダ映画だ。
実際、同作は陸軍指導のもと東宝がフィリピンで制作した「大東亜映画」だ。これは「数世紀の長きに渡つて東亜諸民族に強制せられて来た欧米文化を駆逐」するという国策に基づいた映画で、大東亜共栄圏内の国々の映画人たちと、日本の映画人が協力して制作された。
ただ、国策映画ながら、エンタメ作品としてもよくできている。メガホンを取ったのは、ハリウッドで映画を学んだ阿部豊という人で、映画のクライマックスに激しい戦闘シーンがあるところなどハリウッドの戦争アクション映画のようだ。
そんな『あの旗を撃て』の見せ場のひとつに、速水部隊長という日本兵が、ゴメス大尉というフィリピン人を「改心」させるシーンがある。速水部隊長は戦闘で捕虜にしたゴメス大尉に対して、日本人はフィリピンをアメリカから独立させるために戦っている、という「日本の美徳」を説明して、こんな風に諭す。
「フィリピン人なら東洋人としての誇りを大切にせよ」
かくして、アメリカの洗脳から解けて「改心」をしたゴメス大尉は、戦線放送でフィリピン兵たちに日本軍と戦うのをやめるように呼びかける――という胸熱の展開になるのだ。
このシーンを聞いて、何かと似ていると思わないか。そう、冒頭で紹介した、ベキがバルカ共和国の悪党に対して、日本の美徳で諭して「改心」を促していたのとそっくりだ。