「日本は寛容」は大間違い?
客観的事実に反してなぜそんな脚本に?

 ベキが演説をした「八百万の神がいるので日本は寛容」「日本には考えの違う相手を尊重する」はまさしく自ら作ったストーリーで、日本人の多くはそう思いたいかもしれない。それらしい「美談」にも事欠かない。しかし、これは客観的には事実とは言い難い。

 例えば、2023年3月に発表された国連の「世界幸福度レポート」で日本の「幸福度」は47位で先進国で最も低く、その原因は「寛容さ」がずば抜けて低いからだとされる。実際、この調査の2020年度版は、「寛容さ」は対象153の国と地域の中で151位だった。日本よりも不寛容な国はボツワナとギリシャしかない。

 この不寛容さは「宗教」に対してもいえる。「現代日本の宗教事情(国内編I)」(岩波書店)には、各国の個人を対象に価値観を調べる国際プロジェクト「世界価値調査」のデータを用いて、日本、中国、インド、アメリカ、ブラジル、パキスタンという6カ国の宗教への寛容度を比較している。

 それによれば、日本は「他宗教の信者と隣人になりたくない」と考える人が6カ国の中で最も多く、「他宗教の信者も道徳的」と考える人が最も少ない。また、「他宗教の信者を信頼する」と考える人の割合も、下から2番目だった(最下位は中国)。これで「相手の宗教を考える」というのは、さすがに無理がある。

 ちなみに、同書ではベキが主張する「八百万の神がいるから他宗教に寛容」という日本人が好む俗説も「思い込み」だとしている。

 この調査では、日本は宗教を重視する人の割合が少ないことも浮かび上がっている。つまり、他宗教に寛容なのは、八百万の神うんぬんではなく、単に宗教そのものに関心がない可能性がある。

「違いを超えて結婚する」というせりふも「客観的な事実」とはほど遠い。日本人の国際結婚は3%程度(2021年人口動態調査より)だ。同じ島国の台湾でも14〜16%だというので、そもそも「違い」を乗り越えるつもりがないと言わざるを得ない。

 では、なぜ『VIVANT』では最後の最後に、このような「客観的な事実」と明らかに反するような「日本スゴイ」演説を、名優・役所広司さんに言わせたのか。あれだけ綿密なプロットや伏線をつくれる制作スタッフが「うっかり」でこんなミスを犯すわけがない。意図的にあのような「日本称賛」を入れたのだろう。