歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】<br />歴史小説と自己啓発書の“意外な相性”とは?Photo: Adobe Stock

歴史小説と自己啓発は相性がいい

【前回】からの続き 書店の棚には「自己啓発」と呼ばれるジャンルがあります。

スキルアップやキャリアアップを目的に読む本であり、仕事のハウツーを扱った本や生き方を指南する本などが並んでいます。

私自身、自己啓発の本を手にとることがあるのですが、実は歴史小説と自己啓発は相性がいいと思っています。

西洋医学的な自己啓発

自己啓発は、どちらかというと西洋医学栄養ドリンクに近いイメージであり、即効性が大きな特徴です。

読んで2、3日は「よっしゃー、やったるぞ!」とモチベーションが上がりやすい。

ただ、4日目以降はモチベーションがゆるゆると下降し、得てして記憶に残る教えは一つか二つだけになりがちです。

漢方薬的な歴史小説

制作者側はそれも織り込み済みであり、特に心に刺さった一つか二つを実行できれば元はとれるという発想でできているのが、自己啓発書ともいえるでしょう。

一方で、歴史小説には漢方薬的な良さがあります。

読んだ瞬間はピンと来なかったり、すぐに習慣を変えられたりするわけではないのですが、長い目で見れば読む前と後では確実に変化が起きていて、読み続ければ人生を大きく変えることもできます。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです