がん終末期は、介護休業=介護期間とすることを検討
介護休業は、介護と仕事との両立のための準備期間として利用するとご説明してきましたが、がんの終末期の家族を見守る場合などは例外です。この時は、介護休業=自分が介護する期間にあてることも検討します。がん終末期に、身体を動かすのがつらくなってから亡くなるまでの期間は、数週間から二カ月程度。個人差はあるものの、急に状態が変化します。そのため、もし自分が直接介護に関わりたいと思ったら、動くのがつらくなってきたタイミングで介護休業を取得したほうが良く、そのための準備を事前にしておくことが大切です。少なくとも介護休業の取得方法や、申請してから取れるまでの時間などを会社に確認するなどして調べておきましょう。
この段取りを始めるタイミングは、早いに越したことはありませんが、「医師から緩和ケア病棟や在宅医療の話が出た時」をひとつの目安として考えるといいでしょう。多くの場合、この話が出た時には、介護休業の取得に向けて、動き出したほうがいい時期ということになります。
実際にいつ介護休業を取るかというタイミングは、家族だけで判断するのは難しいことなので、主治医や看護師、病院の相談室などに相談しながら、大事な家族の介護のために取得する時期を決められるといいと思います。
短期間の休みには「介護休暇」を
この介護休業とは別に、通院の付き添いなどで短期間の休みが必要な場合には「介護休暇」制度を利用することができます。介護休暇は、1日または時間単位で取得できる休みです。
介護を受けられるようにケアプランを作成したり、介護サービス事業者との調整の役割も担ったりするケアマネジャーとの短時間の打ち合わせに利用したり、介護保険を申請したりする時などにも活用できます。対象家族が1人の場合には年に5日まで、2人の場合には年間10日まで取得することができます。
少子高齢化が進むなか、仕事と介護との両立のための法的な整備は進んでいます。必要に応じて制度を利用し、介護保険サービスもうまく活用しながら、自分で「介護をし過ぎない」仕組みをつくっていくことが大切です。介護がまだ始まっていない方も、事前にこうしたことを知っておくと、いざという時に慌てないですみます。介護はいつ始まるかわからないからこそ、使える制度やサービスにどんなものがあるのか、介護に直面した時にどこに相談すれば良いのかを知っておきましょう。
自分の「やってほしいこと」をしてもらう
家族が自分の人生も大切にするという意味では、本人の希望を叶えるだけでなく、自分が“やってあげたいこと”をしたり、時として、“やってほしいこと”をしてもらうのもひとつだと思います。
これは私自身の経験になりますが、今は亡き母が、外出できるのが最後かもしれないというタイミングだった日、母と一緒に近くの量販店に行き、甚平を選んでもらいました。ちょうど夏祭りが近い時季で、母がもし夏祭りまで生きていられたら、一緒に甚平を着ようと思ったのです。直感的に「今を逃したら、もう母と一緒に買い物に行くことはないかもしれない」「母に何かを選んでもらうのは、最後のタイミングになるかもしれない」とも思いました。その日、母に選んでもらった甚平は、その後の自分を支えてくれる大切な思い出の品になっています。
残された時間で、本人の希望を叶えることももちろん大切ですが、大事な人がいなくなった後、自分の人生の支えになるような思い出をつくることができたら、大きな糧になると思います。支える側の家族が、これからの人生を豊かに過ごすためにも、自分がしてほしいことをしてもらうのも大切だと考えています。
困ったらいつでも相談できる
自宅で過ごすなかで、不安なことや心配事が出てくることは、患者さん本人だけでなく家族にもあると思います。家で過ごすなかで困ったことや悩みが出てきたら、ぜひ在宅医療に携わる医療者や介護者に、相談してほしいと思っています。患者さんだけでなく、家族の悩みにも寄り添うのは、私たちの役割のひとつです。時折、「医師や看護師に相談していいのは、患者本人の病状についてだけ」と誤解されている人がいるのですが、在宅医療を進めるなかで起きている困りごとは、ぜひ抱え込まずに口にしてほしいと思います。
例えば、心不全末期で入院していた小泉義仁さん(仮名・65歳)。要介護3の80代の母親と妻との3人暮らしで、妻が母親の面倒を見ながら暮らしています。心不全末期というのは、たとえ動ける状態であっても、心臓を守るために極力動いてはいけないという難しい時期です。義仁さんの場合は特に、比較的身体が動かせる状態にあったため、在宅で過ごす場合には、なるべく動かないように家族が見守ることが大事でした。
本人と家族の希望で、家に帰ることを決断した矢先のこと。義仁さんの妻に疲労がたまり、一時的に体調を崩してしまいました。その時、義仁さんは「家内は頑張って世話をしようとしてしまい、1人で抱えて疲れてしまうんです」とポツリ。それから慌てて、「あ、こんなこと先生は関係ないのに、話してしまってすみません」と言うのです。
『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(講談社)中村明澄 著
関係ないどころか、妻に負担が集中しがちだという点は、これから在宅医療を始めるにあたって、私たちがケアの方針を立てる上でも、とても重要なポイントです。誰か1人に負担が集中する状況を防いだり、家族が疲れ過ぎないようにサポートを行うには、本人を支える家族の状況を知ることが非常に大事です。私は義仁さんや妻にも同様の話をし、「在宅医療を行う上での、本人や家族の心と身体に関わる心配事は、ぜひ遠慮せずに話してほしい」と伝えました。
在宅医療を進める上で、療養する環境がなるべく良い状態にあるようにサポートするのは、私たち医療者や介護者の責任のひとつです。悩みや困りごとがあったら、「こんなこと話してもダメだろう」「自分たちで何とかしないといけない」と無理に抱え込まずに、医師や看護師を始め、ケアに関わる人にぜひ話してほしいと思います。







