「寝つきやすくなるイメージ」とは?
──「眠れないときは羊の数を数えるといい」というのは昔からよく聞きますが、羊の数を数えることに意味はあるのでしょうか。
川野:子どもたちはそれでよく寝ていると思いますし、実際、効果的な人はいますね。羊はフワフワしているので、よいイメージなのではないでしょうか。
──なるほど。羊が1匹、猫が1匹、犬が1匹、とフワフワしているものを想像すると、リラックスするんですね。
川野:そうですね。
他にも、「カピバラが1匹、カピバラが2匹……」でもいいのではないでしょうか。
実際のカピバラは結構ゴワゴワしていますが(笑)。
実はわたし、カピバラが大好きなんですよ。カピバラがたくさんいる牧場で、囲まれて過ごしたいくらいです。
──癒しがあっていいですね!
川野:カピバラは一例ですが、大切なのは「自分は何が好きで、どんなものが平和な気持ちにさせてくれるか」です。
それをふだんから見つけておいて、寝る前にイメージするととてもリラックスできます。
とはいえ、「好きすぎるもの」はNGです。
たとえば、「推し」のコンサートへ行っているところを想像すると、アドレナリンが出すぎて、逆に興奮して眠れなくなってしまうかもしれません。
「モフモフ系」の動物も、それを想像することで穏やかな気持ちになれるのなら睡眠導入にも効果的ですが、熱狂的に推していて、考えただけで胸が苦しくなってしまうような場合には、お休み前には不向きと言えるでしょう。
「単純なタスク」に注意を向けると眠りやすくなる
──『無意識さんの力でぐっすり眠る本』の中に「寝る前に、その日朝から食べたものを1つずつ思い出していき、思い出すたびに『愛されている』と頭の中で唱える」という眠りに誘う手法が取り上げられています。これも実践してみるとけっこう眠くなりますね。
川野:実は、「単純なタスク」に注意を向けることが、とても重要なんです。
朝から食べたものを思い出す、というのも思考力をほとんど使わず、ただそのタスクに意識を向けることによって、考えごとや困りごとから注意を切り替えることができるので、睡眠に入りやすくなると思います。
──『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』では、前述の手法以外にも頭の中で唱えるだけで眠くなる「魔法の暗示フレーズ」が紹介されていますが、これも単純なタスクに意識を向けるためのものかもしれませんね。
川野:そうですね。この本は「暗示」を技法として紹介しているだけでなく、綴られた文字や文章そのものが安心を与える雰囲気に満ちている点が素敵なのだと思います。
読んでいるうちになぜか眠くなってしまう方が多いのも納得です。
「睡眠障害」の基準は、「自分が睡眠不足で困っているかどうか」
──川野先生のお話を伺って、自分の生活を振り返ってみたら、眠くならないことばかりやっていたことに気づいて反省しました……。
川野泰周(以下、川野):眠れないからといって反省する必要はないんですよ。
そもそもですが、「布団に入ってすぐに眠れるのが当然で、早く眠れないのはよくない」というふうに思わなくていいんです。
布団に入って10分以内に眠れる人と、寝つくまでに1時間ほどを要する人がいたとして、10分以内に眠れるほうが優秀、とは考えないでほしいです。
寝るまでに時間がかかるかどうか、ではなく、あくまでご本人が寝つけないことに対して悩みを抱えているか否かが重要です。
今のご自身の眠りに不足を感じていなければ、どんなに短時間の睡眠であっても「睡眠障害」とは言わないんです。
──必要な睡眠時間が決まってるわけではなく、あくまで自分が睡眠が足りてると感じているかどうかが大事なわけですね。
川野:そうですね。ただ、毎日なかなか寝つけなくて生活する上で支障がある場合は、なんらかの対策をとるのがいいでしょう。今日ご紹介したいくつかの方法もぜひ試していただけたら幸いです。
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。