そんななかで、エノキアン協会設立当時の中心人物の一人にオリビエ・メレリオという時計・宝石商(メレリオ・ディ・メレー)の主人がいた。1515年にフィレンツェからパリに移住した宝石商が先祖とのことだが、マリー・アントワネットに気に入られたことが繁盛のきっかけになった。その彼が、日本に老舗が多いのに注目し、エノキアン協会に多数の企業を勧誘するなど、親日家として知られ、私もパリ在勤時やその後のシンポジウムでお付き合いがあった。
オリビエ・メレリオ氏は、皇后さまの父でOECD代表部大使だった小和田恆氏とその夫人の友人としても知られ、また、皇后さま愛用の時計は、このブランドのものだ。両親からプレゼントされたこともあったし、フランス大使館での新製品内覧会にお越しになったこともあるようだ。長い歴史を誇り皇室にふさわしいと評価されているのでないかと推察する。
ただ、最近では、西洋の老舗オーナー一族にプロフェッショナルな人材や設備の近代化のための資金がなく、同業の巨大企業やファンドの傘下に入ることが多い。
Netflixのドラマ「ザ・クラウン」では、のちにダイアナ元妃と共に自動車事故で亡くなったエジプト人ドディ・アルファイドの父親であるモハメド・アルファイドが、老舗百貨店のハロッズやパリの老舗ホテルであるリッツを買収する交渉の場が描かれていたが、のれんの権威を守るためには売るしかないという脅しは興味深かった。
エノキアン協会の加盟企業で
日本最古は718年創業
日本のエノキアン協会の加盟企業のうち最古なのが石川県粟津温泉の旅館法師で、718年の創業という。商店では16世紀に創立されたようかんの虎屋、岐阜市の鋳物・精密治具メーカーであるナベヤ、酒造の月桂冠などが加入している。
創業年が古いとされる企業の中には、「同じような仕事を企業として続けているのか」という観点から継続性について疑問なケースもあるが、先述の虎屋、寝具の西川などは、事業内容の継続性において特筆ものだ。
伊勢丹と合併したが、百貨店の三越は1673年に伊勢松阪の三井高利が日本橋に呉服店を開業してから同じ地域で店を構えて今に至る。余談だが、三越の名は近江の武士で六角氏の下にあったが、織田信長の上洛に伴い伊勢に移住した三井越後守高安にちなむもので、新潟県とは関係ない。