現在のチャールズ国王の父であるフィリップ殿下はギリシャ王家出身で、帰化してマウントバッテン家を名乗っているが、王朝名としてはウィンザー王家の名が存続することになった。

 フランスでは、10世紀のユーグ・カペー王の子孫が、男系男子、しかも、嫡出子に限るという原則を維持しており、現在もパリ伯爵兼フランス公のジャン四世というのが潜在的な王位継承者である。

 また、スペイン王家は、イスラム勢力に対するレコンキスタ(国土再征服運動)を開始したアストゥリアス公ペラーヨの娘の夫の弟であるヘルムートの女系子孫が継続して国王だが、現在の王朝はブルボン家でユーグ・カペーの男系男子だし、ルクセンブルク大公も同様にブルボン家だ。

 デンマークは9世紀のゴーム王の子孫が女系相続を繰り返しながら続いていて、その意味ではヨーロッパ最古だ。オランダやベルギー王家は、近代の建国以来、同一家系だ。

 ロシアでは、9世紀にノブゴロドというところで傭兵王のような形で即位したバイキングのリューリクという人の子孫がキリスト教に改宗してキエフ大公となり、モンゴル人に滅ぼされた。そこで、分家でドイツ騎士団の侵略を撃退したアレクサンドル・ネフスキーの子孫がモスクワ大公となって、キエフ大主教もここに引っ越してモスクワ大主教と改称してモスクワ大公を権威付けた。

 そのあと、イワン雷帝という絶対君主の出現で王族が粛清され、ムソルグスキーの歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」で描かれた混乱の時代を経て、イワン雷帝の皇后の実家であるロマノフ家が帝位に就いてロシア革命まで続いた。

 イスラム圏ではムハンマドの一族の血を引くことは有利な条件で、現在でもモロッコ国王とヨルダン国王がそれに当たる。

 日本の場合と同じく、長い歴史を持つ王室の存在が老舗を支えていることも多いのは、戴冠式における数々の御用達からも見て取れる。宮内庁御用達は英国に倣ったというし、フランスでは共和国政府や大統領府が、王室の工房とか儀式の伝統を引き継いでいることが多い。

 そういう意味では、日本の皇室は、(1)世界で最も長いということ、(2)統一国家樹立以来、同じ家系であること、(3)男系男子という厳しい条件で継承がされていることの3つの点で高度の正統性を持っており、その存在が国家の独立と統一を守るための決め手となっているわけだ。

(評論家 八幡和郎)