世襲の老舗企業の存在は、その暖簾の価値が過大評価されて、新しい実力のある商店や企業の発展を妨げたり、あるいは、老舗企業が守りの姿勢に傾きすぎたりする弊害が生じることもある。だが、高い品質の商品やサービスを、暖簾の価値を守るという気持ちを背骨に維持する効用もあり、それが日本文化のひとつの特徴となっている。
こうした老舗の価値とか精神は、皇室が万世一系で引き継いで、古来の風習や文化を伝承しているのと共通するところが多いし、皇室の存在が民間の老舗を精神的に支えているともいえる。「守らねばならないものがある」という空気がゆえに、一見無駄に見えるものが維持されることは多いと思う。
皇室とのつながりでは、かつて宮内庁御用達として特定の業者が扱っていた商品も、最近では入札になっている。叙勲や園遊会の引き出物として使われる菊焼残月という半月型の菓子はかつて「麻布 菊園」が納めていたが、今は競争入札だ。だが、物によっては、御用達として「固定」しておかないと技術の伝承ができないものもありそうだ。
政治制度における
正統性の3つの根源
皇室は日本国家とか民族の独立と統一を守るためのシンボルであり装置でもある。先の大戦の際に、「国体護持」が終戦の条件となった。
それをもって、天皇制といわれる政治制度とか、昭和天皇個人の身の安全を守るために戦争を長引かせたという批判がある。だが、国体とは、日本国家の独立と統一であり、それを守るために天皇を頂点とする体制が譲れぬ一線である。
戦後になって、岡田啓介元首相が、「弁解するわけではないが、開戦前に非常に力の強い政治家がいて、軍を押さえつけようとしたら、軍は天皇の廃立さえ考えたかもしれない。そうなったら、国は真っ二つになる。今敗れながらも一つにまとまった国であるのは、せめてものことだ」といっているのは、そこそこ妥当だ。
もちろん、当時の政府、軍の指導者、さらには昭和天皇とその周辺が、もう少し思い切って軍部内の跳ね上がりに毅然としていたほうが良かったと思うこともあるが、独立と統一の維持が無価値だったはずもない。
そして、国民がその国体を守るために戦争中も戦後も団結できたのは、皇室が万世一系、つまり、同一家系の世襲によって長いというだけでなく、国家統一の最初から連続しているという歴史があったからだ。
政治制度における正統性(レジティマシー)の根源は、3種類ある。