現役バリバリのメジャーリーガーたちと、世界一を懸けて真剣勝負ができる。やるしかないだろう!闘争心がふつふつと湧き上がってきました。
古代中国の学者が示した6つの指針と
稲盛和夫が説いた「非情のススメ」
侍ジャパンの監督とは、どうあるべきなのか――その答えを探す日々が始まりました。
勝つチームを作るのは当然のタスクですが、自分自身がどうあるべきなのかをしっかりと持たなければいけない。古いノートをめくっていると、中国の学者・崔銑(崔後渠)の残した『六然訓』が目に留まりました。
(1)「自処超然」とは、何事にも執着しないで平然とし、自分自身の問題に一切捉われない。自分のことになると直接的な利害が生じるから、超然としているのは難しいことを説いています。
中国三国時代の政治家にして軍師の諸葛孔明は、「我が心、秤の如し。人の為に低昂するあたわず」との言葉を残しています。「自分の心は秤のように公平で、どちらか一方に偏ったり、私情を交えたりしない」との境地は、まさに「自処超然」そのものでしょう。
(2)「処人藹然」とは、人と接する際には、表情も態度も春風のようになごやかで穏やかな気持ちでいることです。
(3)「有事斬然」とは、いったん事が起こったら、ぐずぐずしないでズバリと対処する。「斬」には「斬る」と同時に「新しい」の意味が含まれ、陋習を打破していくのです。
そうやって事がおさまったら、(4)「無事澄然」の境地です。問題がないときは、水のように澄んだ心でいる。雑念を振り払って、清閑を楽しみます。
問題がないだけでなく、物事がうまくいっているなら、(5)「得意澹然」を心がけます。「澹」は「淡」に通じていて、努めて淡々と、あっさりとした謙虚な態度で過ごすべきだと教えてくれます。調子がいいときは傲慢な心が出やすいので、そうならないように気をつけるのです。
そうやって「得意澹然」でいても、試合に敗れることはあります。ビジネスマンのみなさんなら、競合するライバル会社に敗れてしまった、というシチュエーションでしょうか。
そういうときこそ、(6)「失意泰然」です。やせ我慢でもいいから、ゆったりと落ち着いて構えようと『六然訓』は教えてくれます。
私にとって唯一無二の真剣勝負となるWBCは、3週間ほどで7試合を消化する短期決戦です。短期決戦は戦いかたが違うと言われますが、クライマックスシリーズや日本シリーズを経験すると、「なるほど、違う種類の戦いだ」と実感させられました。