日本で起きた「値上げ先行」型サイクル

 第一は「賃上げ先行」だ。図3は、物価の上昇より賃上げが先行した場合、実質賃金がどのように推移するかを示したものだ。

 慢性デフレ下では実質賃金は100で不変だ。ここで賃上げが先行する場合、新サイクルへの移行1年目の春闘で賃金が2%引き上げられる。

 このとき、物価は瞬時には反応しないので、実質賃金は移行1年目の初頭に102となる。その後、物価が徐々に上昇するにつれて実質賃金は下がっていく。移行1年目の終わりには、物価が累積で2%上昇しているので、実質賃金は元の100に戻る。

 もうひとつのパターンは「値上げ先行」だ(図4)。

 値上げ先行なので、図3のような新サイクルへの移行1年目の初頭に賃上げは起きない。一方、物価は先ほどと同じく移行1年目にゆっくり上がるので、実質賃金は徐々に低下し、1年目の終わりには元々の100から98まで低下する。その後、移行2年目の初頭の春闘で2%の賃上げが実現し、実質賃金は元の100まで回復する。

 まとめると、賃上げ先行では1年目に労働者(消費者)の懐が温まる。これが値上げ先行では、1年目に企業の懐が温まり、労働者(消費者)は厳しい生活を強いられる。このようにどちらが先行するかによって、1年目は対照的なプロセスを踏む。ただし、2年目以降は、どちらのケースでも賃上げと値上げが交互にやってくるので、好循環のサイクルが達成されることになる。

 昨年の春以降の日本経済を振り返れば、好循環への移行プロセスは明らかに図4のような値上げ先行だった。そこで、以下では値上げ先行を前提に議論を進める。